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ガウディ作 カサ・ミラ(バルセロナ スペイン)
ガウディ作 カサ・ミラ(バルセロナ スペイン)

日本絶賛派である筆者の前置き

日本ほど社会が安定している先進国は他に無いと、筆者はいつも感じており日本絶賛と日本びいきでは誰にも負けないと思っている。絶賛するものは数多いが、その対極に「最悪」というものも必ずある。絶賛派の前置きとして、まず最悪をひとつ。何ごとにも悪い面を粗探ししてこれがダメ、あれが良くないという人がいる。学校のダメな先生と同じで、これで心身ともに健全な青少年が育つわけが無い。教師の本来業務は、子どもの良いところを見つけて本人の成長の糧とすることである。わが国のほとんどのマスコミもこの点では同様に最低の分類になる。それはさておき、まずは「現場が支える素晴らしい日本」がある。

現場が支える素晴らしい日本

今回のコロナ対応でもそれが実証された。厚労省が何か良いことをしたかを見つけると、「専門家チーム」を組織して専門家にアドバイスしてもらえるようにしたことがひとつある。感染症の大流行について、事前に何の検討もしていなかったとは本来業務についての責任感のレベルが低過ぎる。まともな企業であれば、責任者は免職か少なくとも降格は免れない。どうせ何もしていなかったのなら、横浜港クルーズ船の対処は自衛隊のプロチームに丸投げしたほうがはるかに良い結果だったことだろう。「丸投げ」は引き受け先の実力を見極める見識があれば、語感よりもはるかに賢明なやり方である。検査キット不足も当然のことだったが、不足解消を輸入に頼ることをやめて医療資源を重症患者に集中させた方針転換は正解だった。輸入先がいずれも粗悪な品質で定評があったし、厚労省としては意地でも輸入したくなかったのだろう。重症患者に集中できたので世界トップレベルの低死亡率を維持しているからりっぱな結果を得ている。例によって、マスコミはこの快挙にはふれたがらない。わが国の良いことはひと言も言いたくない人たちである。この快挙を支えたのは、医療の現場である。マスク、防護服、フェイスシールドなど満足な補給が無かったにもかかわらず、現場で工夫して対応した。全ての国民に現金を給付することになったのだから、こういう医療現場の人たちには追加して給付するくらいはしてもよいのに、厚労省は気が利かないお役所の典型である。

日本の現場にあるカイゼン文化

今回のような非常事態において、医療現場でこのような行動は世界の各国で存在したことが報道されている。だから、これは日本だけの美点ということではないように見える。しかし、わが国には、ごく普通に非常時でなくて平時でもこのような現象、つまり、組織全体で一致協力して成果を出す取り組み・活動が存在する。わが国の製造業やサービス業の現場では、このような組織的な取り組み、いわゆる「カイゼン活動」がある。そして、日本発のビジネス文化として、世界に発信されており海外に拠点をもつ日系企業、とくに製造業の場合は海外でもカイゼン活動を展開しているのはよく知られていることである。

カイゼン活動とは

職場の小集団活動の目的はさまざまである。安全、品質、コスト、納期などについて職場の問題点をチーム全員で知恵を出し合って改善する。職場の自発的な取り組み姿勢が無いと長続きしない。当然のことながら、チームだけでは解決できないこともあり、そのときの対応がカイゼン活動の重要ポイントとなる。そういうときは、職場の上司はもちろんのこと、他部署を巻き込んで一緒に知恵を出す、組織や役職の階層を越えて協力する。つまり、究極は全社で一緒にカイゼンすることになる。さて、ここまででそれは「当たり前」「普通のこと」と思われるかもしれないが、日本以外では、あり得ないことである。その秘密は何だろうか。

カイゼン活動、その秘密

①日本は社会に階層がない。言ってみれば「四民平等」の社会である。従って、組織内に役職の階層はあっても、協力関係には壁がないから、共通の目標に向かって全員で協力できる。例えば、米国での最近の黒人差別デモは、欧州にも広がっている。社会が階層によって分断されており、社会的格差も拡大していることが主因ではないだろうか。
②経営トップが、管理職やチームリーダーなどに権限を委譲することに抵抗がない。むしろ、現場に任せてやる気を出してもらうことを意識しておこなう。対して、欧米ではトップダウンが主流である。日本のようなボトムアップは、もともとの階層社会にはなじまないからだろう。
③現場に任せると、きちんと引き受け責任をもって活動を進めるやる気のある人が必ず存在する。そういう人はその仕事で成長していく。やる気のある人がチーム全体をリードし良い結果を出す。このように組織の中間層に堅実な人材が多数存在することが、カイゼン活動の核になっている。

日本社会の特長の反映

これらはすべて日本社会の構造や文化を反映している。欧米は、社会の構造や文化が異なるので、平時にこのような協力関係は難しいと考えられる。細かいことを言えばいろいろあるだろうが、ざっくり言えば次のようにまとめられる。
④欧米は基本的に階層社会。命令で動く社会、階層を超えた協力は難しい。
⑤指揮命令系統はトップダウン、中間層に権限を委譲する習慣は無い。従って、中間層の人材は育ちにくい。
⑥部門間や役職間には強固な壁がある。それぞれの役割分担や責任範囲が明確に決められている。「部門を越えて」などはかんたんにできることではないだろう。つまり「一致協力」はもともと難しいのではないか。

上記のように、欧米はわが国とはことごとく対照的である。かんたんに言えば、命令で動く仕組みなので、柔軟に協力して何かに取り組むことが難しい。さらに言えば、わが国では働くことは生きがい、働きがいという考えが珍しくない。他方、欧米では労働は罰という考えがあり、これもまたきわめて異なる。日本では、上位者が目的や方向を示せばこまごまと指示しなくても、「現場に任せる」ほうがうまくいくことが多い。現場にそれなりの責任感とやる気のある人がいる、そういうことも大きな要素になっている。

カイゼン活動は、日本発のビジネス文化であり「日本ほど素晴らしい国は無い」を証明する一例である。

2020.6.22 津曲 公二