• クリティカルチェーン TOCによるプロジェクト・マネジメント

津曲 公二

初秋の放牧地(アティエンサ カスチージャ・ラ・マンチャ州 スペイン)
初秋の放牧地
(アティエンサ カスチージャ・ラ・マンチャ州 スペイン)

新築住宅への設置義務化

都内で新築する住宅に太陽光発電設備の設置を義務づけることを検討する意向を、小池都知事が明らかにしたのは昨年9月のことでした。政府は2030年に新築戸建て住宅の6割に太陽光発電設備を設置する目標を設ける方針を示しているそうです。再生可能エネルギーの普及に向け、都知事としては目標ではなく義務化という点が注目されていました。
新年早々、条例制定を目指す小池都知事の意欲的な発言「ゼロエミッション東京の実現」で批判や反対論が相次ぎました。条例制定は早くも構想段階で難航する様相になってきました。
本稿では義務化条例そのものの是非ではなく、都知事を含め政府、自治体や企業など組織トップに求められるリーダーシップの難しさについて述べることにします。

小池都知事が提起したのは方針のみ

再生可能エネルギーを拡大することは世界的な潮流になっています。CO2削減には異論もあり、陰謀論という説明もあります。ただ、原油や天然ガスなどのエネルギー資源のほぼ全てを輸入に頼っているわが国にとって、この時流はエネルギー自給率を高める絶好のチャンスと言えます。太陽光発電はわが国でさらに拡大すべきものです。ただ、都知事が提起したのは太陽光発電設備の義務化という方針のみでした。組織のトップが方針のみを示しただけで構想を計画にまで持ち込み最終的な姿を実現することは、わが国ではかなり難しいことになります。ただ、こういうやり方が非常にうまくいった例外的なケースもありました。

石原都知事のディーゼル車排ガス規制条例

2005年、当時の石原都知事は環境確保条例を制定し都内へのディーゼル車の乗り入れを制限しました。記者会見での真っ黒な液体入りのペットボトルは大きな反響を呼び、都民の関心を惹き付けました。この時点で条例を都民の大義とし、世論を味方につけたのは優れた作戦でした。また、対応すべき当事者(言わば敵方)は自動車製造業と運送業、つまりいずれも限定された事業者だけでした。これで都知事の作戦は、初戦から完勝が約束されました。
わが国は国民主権の民主国家です。どのように巨大な事業者であれ、圧倒的多数の民意には逆らえません。全ての具体的な対応はプロの事業者がやることになりました。ディーゼル排ガス対策に苦心しつつもクリーンな排ガスレベルを目指しました。事業者に達成の意思と技術があったので、最終的な姿を実現することができました。

トップダウンのやり方が成功したのは

当時の石原都知事のように、トップとしては方針を出すだけで具体的な計画は担当する事業者にやってもらう。このようなトップダウンのやり方が成功したのはわが国では基本的には例外的なことと言えます。条例の大義が都民に受け入れられたこと(条例の詳細はわからなくても都民にとって悪いことでは無さそうという理解)、そして対応する当事者が抵抗勢力になることなく達成に向けて舵を切ったことなどが、成功の要因としてあったと思われます。大義を前面に押し出し、局面をスピーディに進めた石原都知事(当時)の手腕も秀逸だったと言えるでしょう。

今回、なぜ反対されるのか

都民個人が新築する住宅に太陽光発電設備(例えば、屋根にソーラーパネル)を追加すると初期費用が追加して必要になります。再生可能エネルギーを拡大することの意義はわかったとしても、これがトクになるかどうかが問題になります。個人の住宅でつくった電気を固定価格で買い取るFIT制度が知られていますが、トクにならなかったという評価があります。何年でモトが取れるかわからないものは相手にされないでしょう。
都民に対して負担を強いるものの義務化は、再生可能エネルギーを拡大するということだけでは無理があります。わが国は独裁国家ではありませんから、都知事の方針だけでは、この件は動きがとれないでしょう。

都民個人がトクする仕組みを提示する

方針だけではなく、現行のFIT(固定価格買取)制度に代わる仕組みの全体像がわかるものを提示することが、まず欠かせません。新築時にソーラーパネルをつければトクになる、この仕組みを東京都がつくり上げる。つまり、方針だけでなく実行計画が必要です。そのためには関係者(政府省庁、電力企業など)との協力体制などをつくり上げ、すり合わせと根回しのうえでようやく実行計画ができることになります。これにより、個人がトクになることがわかれば「義務化」などは不要になるでしょう。東京都がこのようなことに着手すれば、政府や他の自治体も動き出すでしょう。大義そのものは誰でも理解しています。
結論としては、次の段階で必要になるのは都民がトクになる仕組みづくり、それを実現するための実行計画作成ということになるでしょう。トップダウンだけではどこも動きません。