• クリティカルチェーン TOCによるプロジェクト・マネジメント

津曲 公二

朽ち果てた古城(アティエンサ カスティージャ・ラ・マンチャ州 スペイン)
朽ち果てた古城
(アティエンサ カスティージャ・ラ・マンチャ州 スペイン)

またもプリウス暴走事故

消防によりますときょう正午すぎ大阪狭山市のスーパーに車が突っ込み、3人が病院に搬送されたということです。

出典NHK NEWS WEB 2021.11.17

筆者はこの動画を見ましたが、クルマはトヨタプリウスでした。その後の報道によると、歩行者の1人死亡、2人重症。運転していた89歳の男性は現行犯逮捕され、警察の調べに対し「アクセルとブレーキを踏み間違えた」と話しているそうです。

プリウス暴走事故については、本欄で過去3回取り上げています。いずれもトヨタがメーカーとしての説明責任を果たしていないことがそこにありました。それぞれのポイントを振り返ります。

プリウス暴走事故裁判で感じる際立つ非対称性  第61回

トヨタは米国でも暴走事故でリコールを発表しました。豊田社長が議会で釈明し、最終的には和解金を支払うことで決着しています。ところが、日本での対応は米国とは全く異なりました。米国では、議会、マスコミ、被害者による告訴などの手ごわい交渉相手が多種多様に存在します。わが国ではそれらが一切存在しません。トヨタはその環境に応じた対応に終始しました。つまり、米国のような責任の取り方は一切しませんでした。
筆者は、トヨタは信頼回復のため第三者組織による真相究明をすべきとしました。

炎上による同調圧力に屈したか プリウス暴走事故判決 第70回

ここでは、世論に迎合し著しく公平性に欠ける司法の判断を取り上げました。メーカーであるトヨタは車両に搭載する記録装置の情報を裁判資料として提出しました。記録装置の誤作動については多くの情報があるにも関わらず、その信頼性を検証する姿勢が裁判全体で全くありませんでした。この裁判の前から無責任な世論が炎上して被告叩きが続いていました。筆者としては、この裁判は証拠の認定もずさんでかつ炎上による同調圧力に屈したものとして批判しました。

執拗な被告叩き 池袋プリウス暴走事故一審判決後も続く 第72回

実刑判決から2週間も経たないうちに、被告の実名に元院長をつけた被告叩きの記事が出ました。この記事では被告の主張「事故の原因は車にある」を荒唐無稽な主張としています。記録装置に客観的な信頼性がある場合は荒唐無稽と言ってよいでしょうが、この信頼性は全く確立していないのです。裁判官もその点については全く疑問を持たなかったようですが、恐るべき無知と言うべきでしょう。執拗な被告叩きで胸をなでおろすのは誰かと指摘しました。この判決の影響は絶大です。今後の暴走事故はすべて「ドライバーの過失」とすることができるからです。現に11月17日の事故では本人がそのように話しているそうです。

使用者の過失(ミス)は起こりえる 安全対策の基本的な考え方

トヨタの対応に全く欠けているのは安全対策の基本的な考え方です。以下、説明します。通勤電車のホームに転落防止用のホームドアが設置されています。これにより、動いている車両に乗客が接触する事故も防止できるでしょう。エレベーターのドアは使用者が挟まれると自動的に開く方向に作動します。
製造工場では様ざまな設備や機械を操作します。作業者の不注意ミスによる事故が起こったら、必ず対策を実施します。同じような不注意ミスがあっても、被害が無いように対策が施されています。
つまり、不注意ミスによる事故は起こりえるという前提で考えます。作業者の注意力に頼ることだけでは対策にはなりえません。

メーカーとして安全対策を放棄するのか

トヨタは裁判においては証拠資料なるものを提出しています。しかし、それ以外は一切沈黙を続けています。ドライバーの過失と裁判でも認められたのでトヨタは何もタッチしないという立場なのでしょう。過失があっても事故にならないようにする、これが安全対策の基本的な考え方です。市中のカー用品ショップでは自分で取り付けられる「暴走防止器具」が販売されています。メーカーであれば、販売するすべてのクルマに同様な目的のことができるでしょう。

わが国の自動車産業 衰退の始まり

製造業、素材産業などで品質に関わる不正やデータ改ざんなどが起こって今も続いています。しかし、これらは企業からの発信であることに救いがあります。そして、各社とも人心を一新して改革の活動に取り組んでいます。プリウス暴走事故についてのトヨタの姿勢はこれらとは対照的です。何の発信も無く、内向きで透明性に欠けると言わざるえません。

自動車産業は1970年代の日米通商摩擦を経て現地化などの取り組みで成長してきました。厳しいディーゼル排ガス規制をクリアしかつハイブリッドという燃費改善の切り札で世界の自動車業界の燃費競争に完勝しました。ハイブリッドはもちろんトヨタの独創技術です。

カーボンニュートラルの動きで世界の自動車業界は一斉にEV(電気自動車)への転換に舵をきっています。その中にあってトヨタだけが、燃料電池や水素エンジンなどに囚われたかのような迷走を続けています。

暴走事故についての透明性の欠如、EV転換に際しての迷走を指摘しました。これらはトヨタだけの問題では無く、その影響は自動車業界全体に波及します。長期にわたりわが国の産業界を牽引してきた自動車産業ですが、トヨタの姿勢から筆者にはその衰退の始まりのように見えます。