• クリティカルチェーン TOCによるプロジェクト・マネジメント

津曲 公二

塩浸温泉龍馬公園にて(鹿児島県 霧島市)
塩浸温泉龍馬公園にて(鹿児島県 霧島市)

電話のベルを2回鳴らさない

研修講師なり立てのころ、営業担当の先輩と一緒に企業を訪問しました。受付から奥まった社長室に案内されました。同社A社長の開口一番のコメントです。「電話のベルを2回鳴らさない、オフィスでお客さまが来られたら挨拶する。この二つができない限り、あらゆる研修や教育は無意味だ」。研修をお薦めする立場の講師としては、いきなり面食らう発言でした。それでも全面的に賛同できることでした。反射的に「それはほんとうにその通りですね」と応えました。受付から社長室までに社員の方々とすれ違いました。その挨拶や会釈がとても良い雰囲気だったのです。社長の方針は現場で実践されていると感じました。

営業担当の先輩は前職でA社長とは10年ほどのおつき合いがありました。当日はその思い出の懇談が中心になり、講師の筆者が説明する時間はごくわずかしかありませんでした。それでも、後日連絡があり幹部社員向けの研修を実施することになりました。そのとき知ったのですが、同社では外部から講師を招いて様ざまな研修を実施されていました。

企業組織の規律(躾け)

A社長が目指されたことは、社員の規律を育てることだったのでしょう。感じの良い挨拶や会釈は法律で強制されているわけではありません。無くても罰則はありませんが、いろいろな人間関係を円滑にする効用があります。規律と似たものに規則(規定、規程)があります。規律と異なり、規則となると守るべきものになりますから法律のように違反すると罰則があります。

A社長の規律を育てる二つの項目(電話のとり方、挨拶)はシンプルです。やろうと思えば誰にでもできます。組織の規律を育てるアプローチとして、とても理にかなったやり方です。このようなやり方で、わが国の製造業やサービス業に普及しているのが現場の業務改善のための「5S活動」です。

カイゼン活動 5S(5つのS)

5Sとは次のようになります。全ての言葉が「さ行」で始まっているのが特長で覚えやすくなっています。

  1. 整理・・・不要なものを捨てる
  2. 整とん・・必要なときにすぐ使えるようにする
  3. 清掃・・・掃除する
  4. 清潔・・・チリひとつ落ちていない職場にする
  5. 躾け・・・職場の規律を守り育てる

最初の三つは、それ自体は難しいことではありません。易しいことですが、それを継続することが重要です。これらの行動を継続すると、清潔な職場が実現し誰が見てもわかる状態になります。最終的に職場に規律が育つ。素晴らしいシステムです。日本発のカイゼンシステムとして、海外でも日系企業を中心に展開されています。わが国では製造業やサービス業で普及しています。いずれの業界においても、生産工場やサービス提供の最前線などの部署が主な対象となっています。

易しいことを継続すると、それが好ましい規律として確立する。このような観点から、わが国のコロナ対応がなぜうまくいっているのか、そのひとつの理由として納得できるように感じます。

わが国のコロナ対応が良い結果を出している理由

世界のすべての国で新型コロナ感染症は、まだ終息するようには見えません。欧州各国、ロシア、米国などで再拡大が続いています。それに対してわが国は終息に近づいているように見えます。海外からの入国制限解除が始まりました。この影響で終息は遠くなるのかもしれません。いずれにせよ、わが国はワクチン接種率も70%をこえました。このような状況は、世界的に見てきわめて良い結果と言ってよいでしょう。

良い結果のひとつの理由として、筆者が感じるのは日本独特の国民的習慣です。外出後は手洗いとうがいをする。風邪や花粉症でマスクをつける。これらは国民的習慣であり、世界のどの国にもこのような習慣は無いようです。

今回の感染症終息について友人から聞きました。半年ほど前にCNNニュースで放映されていたそうです。専門家のシミュレーションによると、終息する条件として次のようなことがあるそうです。まず国民のワクチン接種率が70%を超えること。マスク着用、手洗い励行、三密を避けるなどを引き続き実行する。この条件は、現在のわが国ではそのまま当てはまります。ひとつの仮説ですが、わが国は終息に最も近い状態なのかもしれません。

手洗いやうがいといった易しいことを継続して実践する。これらが終息にも良い結果をもたらす。カイゼンの5Sと同じパターンです。わが国独自の文化に誇りを感じます。