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津曲 公二

日産アリア(同社特設サイトから転載)量販EVとして10年の歴史をもつ日産の最新モデル
日産アリア(同社特設サイトから転載)
量販EVとして10年の歴史をもつ日産の最新モデル

ドイツ自動車メーカーの最近の不正行為・・カルテル

欧州委員会が本年7月、ドイツのダイムラー、BMWやVWグループなど自動車5社による排出ガス浄化装置の開発におけるカルテルを認定しました。その制裁金賦課を約1,100億円と決定しました。これについては、本欄で既にとり上げました(第69回 2021.08.30)。ドイツ自動車メーカーの不正行為は、このカルテル認定に留まらず過去にも大きな前科がありました。

2015年の大規模な不正行為・・排ガス浄化装置の無効化

前科とは、2015年10月に米国で発覚したVW社の排ガス浄化装置を無効化させる不正なソフトを組み込んだ事件です。このソフトはクルマが排ガス試験中であれば浄化装置をフルに作動させる。通常の走行時は浄化装置を停止させ燃費を良くする。燃費は良くなるが、環境を汚染する窒素酸化物は米国基準の10~40倍になったといいます。
さらにこの問題はVW社だけに留まらず、疑惑はダイムラーやBMWなどドイツの大手自動車メーカーにも飛び火しました。VW社の制裁金、和解金やユーザーへの賠償金は2兆円を超え、Made in Germany の名声は地に落ちた感じがします。同時に、ドイツ自動車業界の誇りだったエンジン技術の凋落を世界に見せつけることになりました。日本の全ての自動車メーカーは、排ガス規制をきちんとクリアできていたからです。

利益のためなら手段を選ばないのか

ドイツのメーカーは、このような不正行為を秘し隠すことができると思っていたのでしょうか。それとも、危ない橋を渡ってでも利益追求のほうが優先したのでしょうか。恐らく、後者の利益優先だったろうと思われます。自動車の100年以上の歴史において、これほどのスキャンダルは見つかりません。普通の企業であれば、倒産してもおかしくない事態でした。しかし、ドイツの自動車産業は国の大きな収益源となっています。政府や自治体は経営陣の責任は追及しても(その追及も生ぬるいという国内メディアからの批判があったようですが)、VWのような大企業の倒産や解体などは全く考えていませんでした。
我われ日本人としては世界的な大企業であっても、利益のためなら手段を選ばず何でもやってのけるということを熟知しておく必要があります。

わが国のメーカーではこのような不正行為は例外的だが

ドイツに比べれば、わが国のメーカーにはこのような計画的で大規模な不正行為は例外的と言ってよいでしょう。過去、消費者のみならず日本社会全体から信頼を失ったメーカーは1社あっただけです。わが国のトップクラスの企業ではこのような不正行為は起こっていません。しかし、業界全体には大きな問題をかかえていると筆者は考えます。それは見えざるカルテル体質の温存です。

高過ぎる国産車価格

以下、筆者の私見に基づいて述べます。
国産車の販売価格は、20年間以上にわたって値上がりを続けています。日本全体がデフレにより、物価の上昇が停滞している中で、クルマの価格は上昇が続いています。これに伴い、国内の販売台数も継続して減り続けています。価格が高過ぎて消費者の手に届かなくなったからです。若者のクルマ離れなども理由にされますが、主な理由ではないと思います。単純に「クルマが高くなりすぎたから」、これに尽きると思います。生活にクルマが欠かせない場合、比較的低価格な軽自動車を購入する。軽自動車が堅調に売れているのは、クルマの価格がまだ消費者の手に届くところにあるからです。

カルテル体質が温存される業界

国内のクルマ業界は、価格破壊が起こらない世界です。筆者はその理由として業界内にカルテル体質が温存されているからと考えます。もちろん、メーカー各社があからさまな談合をしているわけではないでしょう。暗黙の相場価格が形成されており、全ての企業がそれに沿った価格設定をおこなう。どの企業も他社を出し抜く「掟破り」はしない。企業間には独特の「信頼関係」が継続して保たれている。筆者はそのように考えます。

資本主義の本質を忘れたか

品質の良いものを安くつくる、これが資本主義の本質であり鉄則です。わが国のメーカーは、これを忘れたフリをして安易な道を歩いています。品質の良いものだから高くても良い、という安易な道です。
1913年、米国のヘンリー・フォードはライン生産による大量生産方式を導入し価格を引き下げました。自動車を金持ちだけでなく、一般の人たちにも買えるようにしました。わが国のメーカーには、このような発想の持ち主は存在しないのでしょうか。
電気自動車(EV)の時代にあっては、従来のような技術的な参入障壁は無くなったと言えるでしょう。構造もシンプルになりますから、現状より40%~50%低い価格が常識になるでしょう。それが達成できないようだと、安くつくる海外メーカーがわが国の市場を席巻することになりかねません。

世界の企業が参入するEV市場

EVが世界の潮流になっています。ガソリンを一切使わず、バッテリーとモーターで動くクルマです。構造がシンプルですから、ビジネスの参入障壁はきわめて低い。米国テスラ社が現在のところ世界のトップ企業として有名ですが、欧米の自動車企業も競ってEV化を進めています。歴史の浅い中国においては、エンジン技術の不要なEVならば互角の競争ができると考え多くのメーカーが参入しています。

世界に比べてわが国のメーカーは、EVの取り組みが遅れています。海外のメーカーにはわが国の「カルテル価格」は通用しません。彼らの戦略に基づいた価格設定で勝負をかけるはずです。来年にはテスラ、VW、BYD(中国)などの海外メーカーが競ってわが国の自動車市場に参入すると予想されます。

海外製EVが起す市場の価格破壊

なかでもテスラ“モデル2”は270万円という価格が公表されています。EVの量販では世界に先行してきた日産リーフ(471万円)より43%も安い価格です。これに国や自治体の購入補助金がつくと軽自動車とほぼ同等の価格になります。しかもEVは電気代などを含む維持費が安い・・。海外製EVの登場により、わが国の自動車メーカーは経験したことの無い競争環境におかれるでしょう。

海外製EVによる価格破壊が、温存されたカルテル体質を明るみにさらけ出します。わが国メーカーに、このような「黒船」に対抗する備えはあるのでしょうか。