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津曲 公二

メルセデス・ベンツ博物館にて(シュトゥットガルト バーデン=ヴュルテンベルク州 ドイツ連邦共和国)
メルセデス・ベンツ博物館にて
(シュトゥットガルト バーデン=ヴュルテンベルク州 ドイツ連邦共和国)

カルテル認定でドイツ自動車メーカーに制裁金

欧州委員会は7月8日、ドイツのダイムラー、BMW、VWグループ(VW、アウディ、ポルシェの3社)の自動車5社による排出ガス浄化装置の開発におけるカルテルの存在を認定し、総額8億7,519万ユーロ(邦貨約1,100億円)の制裁金賦課を決定したと発表した(JETRO ビジネス短信 2021.7.09)。

排ガス性能試験不正とは別の違反行為を各社とも認めた

本件は、ディーゼルエンジンの排出性能試験における不正に関するものではなく、ディーゼルエンジンの排出ガスから有害な窒素酸化物を削減するために尿素水を注入する制御技術の開発協力におけるカルテル行為に対する違反認定。5社はいずれも、カルテルへの関与を認め、今回、和解手続きによる解決を受け入れた。

技術開発におけるカルテルの認定はEU初

通常、カルテルは価格操作や数量制限、市場分割といった取引制限行為が対象だが、今回、欧州委はEUでは初めて、こうした価格形成や販売数量に直接影響する要素ではなく、技術開発そのものにおける談合行為だけでカルテルに該当すると認定した点に特徴がある。

ダイムラーだけが課徴金を免れた

ダイムラーとVWグループは、欧州委に情報提供する見返りに制裁金の減免を受けることができるリニエンシー制度の適用を受け、最初に通報したダイムラーは制裁金ゼロ、欧州委の調査に協力したVWグループは45%の減額対象となった(ここまで出典は上記と同じ)。

談合のときは足並みをそろえておくが、いざ危機を感じたらすかさず申告し他社を出し抜いて課徴金の減免を受ける(ダイムラーの場合、課徴金はゼロになりました)。情報提供する見返りに制裁金の減免を受ける制度は日本にも導入されているそうです。わが国企業の場合ダイムラーのような「超合理的な」選択ができるのでしょうか。「悪事が露見した以上、せめて制裁金による損失はできる限り少なくしたい」「談合に参加した他社に遠慮する必要は全く無い」。ダイムラーはこのような考え方で意思決定に至ったのでしょう。これを考えてみて、筆者としてはその意思決定に驚くばかりです。そして、この驚きのもとには、ドイツとわが国では行動を起こすきっかけ(基準)がまるで異なるのではないかと感じました。

ドイツとわが国では行動のもとになる基準が異なる

たとえ談合という悪事においても、わが国では自社だけがさっさと離脱を決めて他社を出し抜くようなことをすればいっぺんに信用を失うでしょう。他社から今後はまったく声がかからなくなるかもしれませんし、こちらから声をかけても相手にされなくなるかもしれません。
ドイツの場合、このような基準はなさそうです。損失をいかに小さくするか、つまり行動の基準は利益のようです。わが国は信用、ドイツは利益、そのように考えられます。

談合疑惑の渦中でわが国の企業は「信用」を失わずに行動できるか

仮に、わが国企業において談合疑惑が起こったとします。疑惑がある以上、もう集まって相談することはできません。他社の状況を探りながら、各社とも自社が通報するタイミングを計ります。結果として通報順位に差がつきますが、ダイムラーのように自ら真っ先に通報するということではないので「信用」は失われずにすみます。
とはいえ、みっともない結末は目に見えています。同業者からの「信用」は保たれても、社会的な信用は失墜しますし面目もつぶれます。当たり前のことですが、談合には一切関わらないことしか道はないようです。

談合には一切関わらないという究極の対応がありますが、どの企業であれ過失は避けることができません。しかし、さいわいなことにわが国にはリコール制度があります。

過失を迅速に公開させるためのリコール制度

リコール制度はメーカーの過失から消費者を守るためにあります。メーカーに過失があった場合、それを迅速に公開することを義務づけています。趣旨は迅速な情報公開であり、メーカーの過失を問うことではありません。もちろん、消費者側に被害や損害があれば、メーカーには補償する責任があります。米国、英国やEU諸国などでリコール制度が普及していますが、とくに自動車のリコール制度がよく知られています。家電製品などと異なり、自動車の場合はメーカーの製造上の欠陥が深刻な人身事故につながるからでしょう。

わが国でリコール制度が機能しているのは自動車業界だけ

とくに自動車業界でのリコール制度はわが国で定着しています。大規模なリコールも珍しくありませんが、それにより届け出たメーカーへの信頼が揺らいでいるようには見えません。リコール制度の趣旨が高いレベルで実現しています。
自動車メーカーにとってこのような良好な社会環境があるにも関わらず、リコール隠しに走った企業があったのは残念なことです。事件を題材にした小説が評判を呼び、テレビドラマや映画なども製作され話題になりました。この企業は司法による断罪のほかに、社会全体からも罰を受けたことになります。リコール制度の趣旨を全く理解しない時代遅れの経営だったと言わざるを得ません。
自動車以外では、リコール制度がうまく機能しているようには見えません。まだまだ、過失を公開するのは恥である、従って、ひっそりと処理するということになっているようです。

リコール制度の趣旨を活かす

迅速な公開、これがリコール制度の趣旨と述べてきました。あれこれ悩んだり、策をめぐらすのではなく迅速にありのままを公開する。結局のところ、これこそが最良の対応ではないでしょうか。情報化社会において、組織ぐるみの悪事は時間の問題で必ず露見することは間違いありません。

リコールは企業から消費者向け(B to C)の制度ですが、企業間(B to B)にもその趣旨を活かすことができます。企業間の場合、それまでの取引での信頼関係を前提にすれば迅速な公開は信頼関係をさらに強めることが期待できます。リコール制度の趣旨を活かす対応は、利益ではなく信用を重んじるわが国にぴったりのやり方ではないでしょうか。