津曲 公二
自宅の近くで宅配便のトラックを見かけました。電気自動車を示す「EV」が車両側面に大きく表示されていました。車両メーカーを見ようとフロントグリルを見ましたが、わかりませんでした。帰宅してネットをチェックしたら、宅配業や乗合バスで電気自動車が浸透し始めていることがわかりました。
配送用の軽車両を電気自動車(EV)に切り替えるのは佐川急便だそうです。配送の最終段階、いわゆるラストワンマイルに使用されるEV車両は7,200台。同社は昨年6月、この計画を発表、温室効果ガス削減のほか将来的には自動運転も視野に入れています。
乗合バスを千葉市で運行する平和交通はEVバスを2021年に3台購入し、5月から実際の路線に投入しているそうです。二つの事例の共通点は製造委託先が中国だったこと、と伝えています(2021.7.20 ハフポスト日本版)。
「なぜ日本メーカーを選ばないのか」など反応は様ざまだが、現場を取材すると背景には中国メーカーの戦略と政府の10数年にわたる政策の後押しなど複数の要素が絡み合っていると伝えています。
ともかく、わが国の自動車メーカーにはその準備ができていないことは確かなようです。そして、「日本は焦らない方が良い?」との専門家の視点を疑問符付きで紹介しています。
中国のEV事情に詳しい大手コンサルティングA社のB氏が専門家の視点で見解を述べられています。B氏は中国の事情を説明した後「日本勢はEV化を焦りすぎるべきではない」と指摘します。指摘は要約すると次の三つになります。
①まず日本でEV化が進まない理由としてガソリン車に強いメーカーが数多くあること。現時点ではEVは利益率が高くないこと。今後は(先発の)中国メーカーから生産ノウハウを吸収することもあるだろう。 ②日本と米国市場で、従来のガソリン車とハイブリッド車で稼げているのであれば急激な(商品構成の)変化は不要。 ③中国で日本車の比率が高まっていく中で、そこに合わせる形でEV化を進めていき、米国市場そして日本がEV化であるとなったときに準備ができている。 |
B氏は中国のEV事情に詳しい専門家ではあるかもしれませんが、わが国の自動車業界の商品については、専門家とは言えないようです。ハフポストの記者が「?」をつけて紹介したのはそれなりの違和感があったからでしょう。
まずEV化を焦りすぎるべきではないということは、後発メーカーに甘んじることになります。するとどういうことが起こるでしょうか。筆者が親しくしている専門家の見解を紹介します。
①後発メーカーが市場を支配する為には、ある種の圧倒的な差別化が必要 ②日本のメーカーはコストの点では不利 ③技術的には経験不足が足を引っ張る ④日本メーカーは総じて意匠デザイン面では期待できない 結論 これらにより市場参入が遅れれば遅れるほどますます不利になるだろう。 |
以上は、製造業の研究開発に長く在籍し的確な知見をもつ専門家の見解です。筆者はこれほどの知見はもち合わせませんが、すべて納得できることばかりです。EV開発について、後発の不利益を見事に言い尽くしています。
「焦りすぎるべきではない」がわが国の自動車メーカー、とくに世界のトップに位置するトヨタにとっていかに危険な考えであるかがわかります。トヨタはハイブリッド車で世界の市場を席巻し勝者となりました。欧州や米国のライバル企業はEVによる失地回復を着々と進めています。わが国の自動車業界は貿易収支に大きな貢献を続けてきました。トヨタは、その大黒柱のような存在でした。トヨタのEV化の出遅れはハイブリッド大成功による囚われ、率直に言って勝者の驕りとしか見えません。時代の潮流を素直に直視する、筆者がせつに希望することです。