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津曲 公二

昭和天皇の御料車 770プルマンリムジン 1935年 ベンツ博物館にて(ミュンヘン バイエルン州 ドイツ連邦共和国)
昭和天皇の御料車 770プルマンリムジン 1935年
ベンツ博物館にて(ミュンヘン バイエルン州 ドイツ連邦共和国)

偏見や妄執を排し真相を究明するために

2019年4月に起こった池袋プリウス暴走事故の裁判が開かれています。上級国民という卑しいレッテル貼りや厳罰を要求する言説などは偏見や妄執そのものです。事故から2年が経ちました。悲惨な事故を二度と起さないための真相究明は何も進んでいません。相変わらずドライバーの過失とした事故の真相を究明するために、いま何が必要とされているのでしょうか。

被告にも法の下の平等を ~被告の訴えを裏付ける手段が無い

クルマに何らかの欠陥があったのではないかという疑問について、トヨタは「車両に異常や技術的な問題は認められなかった」とするコメントを出しています(2021.6.21)。製造者としては本業の専門分野のことです。このようなコメントをかんたんに出すことができるでしょう。ただ、これは事故との関わりのある当事者のコメントです。これがそのまま認められるか、それは本来別の問題のはずです。マスコミはこれをあたかも正当な事実であるかのように伝えています。

これに対して、被告はトヨタのような技術レベルのコメントや報告書を出すことができません。
このような一方的な情報しか無い場合には、裁判官であれ誰であれ公正な判断はできないのではないでしょうか。裁判において、被告と原告それぞれの提示する情報があまりにも原告側が有利に偏りすぎています。これでは公正な裁判は成立しないはずです。情報弱者である被告の言い分は無視して「ドライバーの過失」として断罪するなら、国民主権の民主主義国家の裁判とは思えません。裁判の経緯に注目しています。

トヨタの対応は日米でダブルスタンダード

このような事故は米国でも起きており大きな問題になりました。まず、米国でのトヨタの対応を述べます。
・・豊田社長は米議会の公聴会に出席し、大規模リコールにつながったトヨタ車の不具合について「きわめて残念だ」と謝罪し、同社に対する信頼を取り戻すことを誓った。
(中略)トヨタ車の、ドライバーが意図せず急加速するという問題で米国では40人近くが死亡したとされており、この問題が世界で約800万台というトヨタ車の大規模リコールにつながった。
米議員とトヨタ車のトラブルに見舞われた顧客の一部には、同社が顧客の苦情をないがしろにし、ソフトウェアや電子系統に問題がある可能性を無視してフロアマットがアクセルペダルに絡まったことや、戻らなくなるアクセルペダルのせいにしていたと主張している。(AFP BB News 2010.2.25)。
結果として、米国ではトヨタの社長が議会で謝罪し、さらには司法省とリコール問題の最終的な和解案に合意しトヨタ側が12億ドル(約1300億円)を和解金の支払うことになったということです。

「同社が顧客の苦情をないがしろにし・・」このあたりについて、米国は議会での追及があり専門の公的機関が調査を担当することになっています。トヨタとしても謝罪や和解金の支払いに追い込まれたと考えられます。

日本では異常や問題は無いことで押し通すトヨタ

わが国にはこのような場合に、米国のように調査を担当する専門の公的組織がありません。
つまり、個人が事故を起したらメーカーは様ざまな見解や報告書を出すことができるが、個人としてやれることはきわめて限られた弱い立場におかれる。
米国では議会や公的調査組織があるから、トヨタはバッシングと感じてもさっさと謝罪し和解にもちこむ。しかし、わが国には厳しく追及する議会や公的調査組織は無い。大手メディアにしてもトヨタに批判的な論調はタブーのように見える。トヨタは恐いもの無しの状況ですね。
従って、トヨタとしては「クルマに異常や問題は無い」「販売台数が多いので多発しているように見えるだけ」「発生率で見ると他車と変らない」などと言って済ますこともできるでしょう。

日米で対応を変えるダブルスタンダードがトヨタにある。つまり、米国とは異なりわが国ではプリウス暴走はドライバーの過失として製造者の責任は無いとする。これは強者の傲慢な姿勢そのものである、筆者にはそのようにしか見えません。

高齢ドライバーの過失はよくあるとしたら

事故の割合として高齢ドライバーの過失が多いとしたら、その事実に基づいた対策をとれば事故は減る。同時に非高齢ドライバーの同じような事故も減るはずです。つまり、メーカーとして特定の事故を無くす努力はできるはずです。それができないかまたはしたくないのであれば、率直に「高齢の方にはお薦めできないクルマです」と言うべきでしょう。しかし、それもおかしい。運転免許をもつ限り「誰でも運転できる」クルマでなければ欠陥車になってしまいますから。

信頼回復のため第三者組織による真相究明を

「高齢ドライバーのよくある過失」に悪乗りしているようでは、トヨタのみならずわが国の自動車業界全体の信頼を失うことになるでしょう。トヨタは、誰もが納得できる第三者組織に「プリウス暴走」の真相究明を依頼して、信頼を回復すべきときがきています。強者は自らの傲慢さに気づかないものですが、気づいたときには没落の坂道を転がっている。そのスピードは案外に速いのです。