• クリティカルチェーン TOCによるプロジェクト・マネジメント

津曲 公二

西シベリア油田地帯の都市チュメニの街並み(チュメニ州 ロシア連邦)
西シベリア油田地帯の都市チュメニの街並み
(チュメニ州 ロシア連邦)

トヨタ社長、合成燃料(e-fuel)への期待を述べる

自動車業界の現在の最大の課題は、CO2排出を実質ゼロにするカーボンニュートラルをどのように実現するかということでしょう。4/22、自動車工業会の会見で豊田社長は次のように述べたそうです(2021.6.17 YAHOO!ニュース)。

日本の自動車産業がもつ高効率エンジンとモーターの複合技術(筆者注:ハイブリッド車)に、この新しい燃料を組み合わせることができれば、大幅なCO2低減というまったく新しい世界が見えてまいります。

合成燃料への未練を断ち切ったドイツ自動車メーカー

アウディは「e-fuelテクノロジーでさらなる進化:新しい合成燃料”e-benzin”のテストを実施中」と発表しています(2018.03.12 Audi Japan Press Center)。これは今から3年以上も前のことでしたが、その後もドイツの自動車メーカーから合成燃料への期待が報道されました。彼らの得意とするディーゼルエンジンの活路を見つけたかったのでしょう。しかし、ディーゼル排ガス不正事件でドイツの全てのメーカーはディーゼルエンジンへの未練を断ち切らざるを得ませんでした。排ガス対策技術で日本メーカーに完敗したからです。そして、各社とも一斉にEV(電気自動車)へ舵を切りました。EVの分野であれば、世界の各社と互角以上に戦えると判断したのでしょう。
世界トップ企業であるトヨタの社長が今ごろになって「まったく新しい世界が見えてきました」とは何という寝ぼけた発言でしょうか。

合成燃料の実現可能性は

『2035年「ガソリン車消滅』(2021年6月)で著者の安井孝之氏は次のように述べています。合成燃料は今のところ妄想に過ぎないことがわかります。

現在の合成燃料の開発状況は『実験室段階』で、大規模なプラントで製造するという段階ではない。最大手の石油会社ENEOSの長期計画によると、2022年に日量159リットル、(中略)、2030年以降に日量159万リットルを目指す。その生産量は現在のガソリン需要量と比較すると、2030年代初めでも合成燃料のシェアは1%程度だ。この数字をみる限り、とてもガソリンに置き換われる代物ではない。

素人の考えるEV(電気自動車)の圧倒的合理性

ガソリンにしても合成燃料にしても、化石燃料由来なので炭素がつきまといます。脱炭素のエネルギーとして最適なものは太陽光発電です。毎日降り注ぐフレッシュな太陽光のエネルギーを使うのが素直な考え方でしょう。EVの合理性は次のとおりです。

  • EVのほうが構造としてシンプルなので価格が安くなる。
  • エンジンやミッションの代わりにモーターと電池なのでメンテナンスもシンプルになる。
  • 走行するためのガソリン代よりも電気代のほうが安い。
  • 排気ガスが無い。

さらにエネルギー資源輸入大国であるわが国にとって素晴らしいことがあります。

  • 走行のための電気代を太陽光発電でまかなえる


住宅やその他のビルなどで太陽光発電を奨励すれば(国の政策を見直す前提です)、EV走行の電力をまかなうだけでなく、真夏の昼間など電力ピーク需要の平準化対策としても有効でしょう。揚水発電の小さな貯水ダムが全国のあちこちにあることになります。
太陽光発電は現在でも省エネ目的で購入されています。国策として、EV普及を視野に入れた計画が実施されればわが国のエネルギー自給率を高めることができます。
なお、EV化により発電所をあらたに建設する必要があると力説する人がいます。必要となる電力量とわが国の発電能力を、適正な原発稼動率も含めて精査してもらうことが欠かせません。

なぜトヨタ社長はEV化を忌避するのか

トヨタはHV(ハイブリッド車)で大成功を収めました。できるかぎりこれを延命させたいことは理解できます。しかし、全ての欧米メーカーがEVに舵を切ったという世界の潮流は決して無視できません。トヨタのHVへのこだわりはEVの出遅れにつながります。それは「トヨタはEVで負けた」という情報戦での敗北につながります。自動車産業はわが国の産業界を支える大黒柱です。EV化の潮流における迷走は、まさにわが国の産業界の危機と言えます。なぜトヨタ社長はEV化を忌避するのでしょうか。筆者は全く理解できません。