• クリティカルチェーン TOCによるプロジェクト・マネジメント

津曲 公二

モンジュイックの丘にあるテレフェリコ(バルセロナ スペイン)
モンジュイックの丘にあるテレフェリコ
(バルセロナ スペイン)

イタリアのロープウェー惨事で運行会社幹部を逮捕

リゾート地であるイタリア北部のピエモンテ州ストレーザで観光用ロープウェーが落下し、乗客14人が死亡した事故で地元警察は26日、運行会社社長ら3人を逮捕したと伝えている(朝日新聞デジタル 2021.05.27)。

記事によると事故の原因は、ゴンドラの緊急ブレーキが誤作動をするようになり、緊急ブレーキを効かなくするよう留め金をかけたと見られる。これを認めている容疑者もいるとのこと。
23日ゴンドラは、湖畔から出発し山頂駅の手前で複数あるケーブルの1本が切断した。進行方向と逆送することになり、約20メートル下の斜面に転落したと見られる。緊急ブレーキが作動していれば、ゴンドラが停止し逆送すること無く事故を防げた可能性があるという。

大事故につながる原因に対処せずそのまま放置

事故の発端は緊急ブレーキの不具合でした。誤作動でゴンドラが停止するようでは運行上不都合でしょう。この状況では、まず誤作動の原因を究明することが急務になります。そのうえで必要な対策を実行することが欠かせません。場合によっては、運行停止が長引くこともあるでしょう。しかし、乗客の安全確保が第一です。何はともあれ、やるべきことは原因究明と対策実行しかありません。しかし、それらは全く眼中に無く、目先の緊急ブレーキの不具合だけを解消することを行った。それは乗客の安全を守る緊急ブレーキの働きを効かなくするものでした。運行会社幹部の職務についての責任感の無さと規律のお粗末さに驚くばかりです。状況から事故の危険性を予測できなかったはずは無く、重大な過失として責任を問われるでしょう。

日立製英国高速列車の亀裂は800両

・・応力腐食割れが原因か 日本の製造業に打撃 記事の見出しはこのように続いています。起きたことの概要を記事から次に転記します。

イギリスで5月8日「鉄道の日立」のフラッグシップ、高速列車800系に亀裂が見つかった問題で、車両本体下のボルスタに亀裂の入った車両は800両にのぼることが地元の鉄道記者の証言で分かった。応力腐食割れが疑われているが、根本的な原因は依然として分かっておらず、修理にどれだけの期間がかかるのか見通しは全く立っていない(ニューズウイーク日本版 木村正人 欧州インサイドReport 2021年06月02日)。

イタリアロープウエー惨事と英国高速列車亀裂発生の対比

二つの情報を対比して筆者が感じたポイントは次のようなことでした。

(1)イタリアロープウェー事故発生・・・経営幹部の怠慢で悲惨な事故が発生した
(2)英国高速列車の亀裂発生・・・不測の亀裂発生により列車運行に大きな支障が出ている

(2)について補足すると、運営会社と利用者に対して大きな支障が出ていますが、死傷事故は事前に防止されました。こう述べると、たまたまそうなったのではないかとの疑問があると思います。亀裂が事前に見つかったことは偶然ではないと筆者は考えます。根拠は予防保全にあります。

予防保全を怠らないわが国の鉄道事業者

鉄道を利用すると車内に「見えないところで乗客の安全を守る」趣旨の広告を見かけます。運行を休止する深夜に電車、線路、架線やその他の設備点検を実施し「事故が起こらないよう予防する」活動をアピールしています。
事故が起こらないような事前の対策は、読者の方々には当たり前と思われるかもしれませんが、世界的にはわが国だけです。他国はすべて何かが起こってからの対応です。そのほうがコストを最小にでき事業者の利益を圧迫しないからです。
鉄道に限らずわが国の公共交通機関が時間をきっちり守ることも世界的な定評があります。これも予防保全と同じ考え方でヒト・モノ・カネなどの資源を投入してきたからです。決して、偶然の結果ではありません。結果として「日本品質」と称されるようになりました。

欧州の鉄道業界に進出を果たした日立の努力と快挙

日立は、2005年に日本の車両メーカーとして初めて鉄道発祥の地、英国の車両製造を担った(出典 日立HP 社会イノベーション)。また、同社は2015年11月イタリアの鉄道車両メーカーと信号システムの子会社を買収しています。他社の参入を許さない閉鎖的な欧州で、まず英国で信頼を勝ち得ました。次に経営難に陥っていたイタリア企業の救済に乗り出しました。ここもわずか3年半ですっかり活気を取り戻したようです(現地ルポ、日立「イタリア鉄道工場」の最深部 橋爪智之 東洋経済オンライン 2019.08.28)。

上から目線でなく、現場のやる気を尊重しつつ「日本品質」については妥協しない経営努力の結果でしょう。とかく内向き志向になったわが国の企業経営において、素晴らしいお手本です。その日立において今回の亀裂問題はまさに「日本品質」の根幹に関わる課題になりそうです。
2017年、わが国の製造業で相次ぐ品質不正事件がありました。今回は「日立よ、お前もか!」との疑いをかけられても釈明できない環境があるでしょう。時間はかかっても、材料検査などを含め一段とレベルアップした製造工程をつくり上げるなどの真摯な努力こそが信頼回復のカギとなると考えます。欧州において「日本品質の代表」として危機克服を期待しています。