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津曲 公二

初夏の新千歳空港上空から 千歳市 北海道
初夏の新千歳空港上空から 千歳市 北海道

映画「頭上の敵機」について

とても素晴らしい作品だからとの知人の薦めで観ることになりました。トップシーンから引きこまれ、時間が経つのを忘れるほど魅力的な作品でした。原題は Twelve O’clock High 20世紀FOXによる製作は1949年ですから、戦後まもなくですね。
1942年、米国空軍の爆撃部隊が英国に駐留していました。その任務はドイツの兵器工場を白昼爆撃することで、映画の主人公はその爆撃部隊のトップです。題名からの印象とは異なり、空中戦などの戦闘シーンはおまけ程度でごくわずかです。あらすじはシンプルに言えば、次のとおりです。難しい作戦に疲れきって士気の低下した部隊のトップの替わりに、主人公が登場する。かなり強引なやり方で当初は全員の猛反発を招くが、最終的には信頼を得て部隊に活力が生まれる。その過程でのトップの苦悩と、トップを補佐する参謀の苦心が説得的に描かれています。

前任のトップはなぜ交替させられたのか

彼は部下の面倒見が良く、しかも全ての戦闘(爆撃)にすべて出動します。部下と苦楽を共にするタイプです。従って、部下からの信頼は絶大です。他の部隊に転任したい部下などひとりもいない。でも、肝心の任務を果たすことができない。戦場でミスをした部下をかばって必要な配置転換をやらない。「部下と密着しすぎて、本来の任務を果たしていない」ことで解任されます。その後任として主人公が登場します。

大事な任務のために徹底的にやる鬼のようなトップ

着任時、開口一番「この不運なチームを再生させるためにここに来た」と言いつつ彼は運など信じないタイプです。「不運には何か原因があるはず、例えば飛行技術のお粗末さだ」ということで猛訓練が始まります。興味深いことは部下に対して「オレのやり方が気に入らない(耐えられない)者は転任願いを出せ」と言うのです。強い権限をもつトップに対して、部下には転任する権利がある。トップの横暴をチェックする監察制度があるのですね。
監察官が乗り出す事態は、トップとしてはできるだけ避けたい。映画の中でも部下が転任願いをいつ引っ込めるかトップが気をもむ場面が出てきます。戦時下の軍隊で、このような下位の立場を守る仕組みがある。これは映画ゆえの誇張はあるにしても、現実に機能していた制度なのでしょう。同時代のわが国の軍隊では、残念ながらそのような制度は無かったのではないかと感じました。

トップを補佐する参謀の意識

参謀は弁護士の出身ですが年齢的に事務職を担当させられています。有能な弁護士らしく、トップを補佐するやり方が面白く、その言い方がいかにも米国的です。「弁護士は、つねに依頼主の言い分が正しいと考えます」「私の依頼主は空軍第8部隊です」と言って鬼のトップのために協力するのです。私はあなただから協力するのでは無い、空軍の任務のためにあなたに協力するのですと大義名分を明らかにします。我われ日本人にはこういう発想が足りないので、よく窮地に立たされたりします。

大義名分で説得する

鬼のトップも、この手の言葉を部下に投げかけます。転属願いを出すのは自由にできると言っておきながら、部下の中で最も信頼されているリーダーに翻意を促します。転属せずここに留まってリーダーとしてやってほしいとの説得が不調に終わる場面です。「ここから転属するのはかんたんだが、兵士としての義務からは逃れられない」、つまり、上官の命令だからやるのではなく、空軍の任務(使命)のためにやるのだ、という論理を持ち出すのです。論理、リクツの戦いで参謀のリクツと同じですね。

製作者が伝えたかったこと

当然のことながら成功物語としてつくったのでしょう。十分にその値打ちがあります。
このようなマネジメントは多少の犠牲はあってもつねに無敵であると言いたかったのでしょう。強いリーダーがいて全員を引っ張っていく、このやり方は欧米社会ではいつも主流となってきました。そして、現在では多少の犠牲だったものが無視できない弊害として目立つようになりました。同時に、70年前のよくできた映画は我われ日本人にとって大きな弱点について改めて気づかせてくれました。