• クリティカルチェーン TOCによるプロジェクト・マネジメント
城壁(パンプローナ スペイン)
城壁(パンプローナ スペイン)

守り立てる(もりたてる)・・励まし育てる

数年前、海上自衛隊の補給艦を見学したことがある。海上勤務では今日が何曜日かわからなくなることがあるらしい。自粛の暮らしでも毎日自宅にいて同じことを体験するが、海上勤務での対策は金曜日の夕食はカレーライスに決めているとのことであった。見学当日の昼食は「海軍カレー」で、なかなかおいしくコックさんの腕前はかなりのものと思った。艦長室も見学できた。部屋にはブリッジ(司令室)にあるものと同様なディスプレイなどの機器が装備されており、居ながらにして外界の全貌がわかるようになっている。乗組員は3交代勤務であるが、艦長には決まった勤務時間はない。ひとりしかいないので交代勤務もない。何かあれば24時間勤務である。従って、いつ休息するかは自分で決める。非常事態において迅速・的確な指揮ができるよう体調管理は自身がやることになっているとのこと。つまり、組織の役割分担が明快である。情報収集や情勢分析は3交代勤務のスタッフの役割である。艦長はそれらを総合したうえで必要な意思決定をおこなう。その決定に基づき、組織は迅速に行動できるようになっている。艦長以下全員がベストの体調で、各自の役割を果たす。

我われが乗船する日本丸という巨大な艦船のトップリーダーは首相ひとりである。コロナという手強い疫病と対峙する戦時のリーダーはたったひとりの首相しかいない。テレビ報道を見る限り、このリーダーを支え、守り立てるスタッフや組織は補給艦に比べてもはなはだ貧弱に感じる。例えば、専門家会議という組織がある。リーダーを守り立てる貴重な組織のひとつであるが、「会議」ではなく、24時間対応できる3交代制の「専門家チーム」にする必要があるだろう。ここで情報収集や情勢分析を行い、リーダーに進言提案する。非常事態なのだから、軍事組織のやり方をそっくり真似るのが適切ではないだろうか。

首相はひとりしかいないのに、24時間勤務のような疲れが見える。首相のもとには、恐らく膨大な情報や陳情が殺到しているのだろう。これらをひとりで捌く(さばく)ことは、誰がやっても容易にできるものではない。そのうえ、責め立てる人たちは多く、大小さまざまなミスや不整合をやっきになってあげつらう。これは多くのマスコミに共通する愚かな行動だが、国民を煽りたてるのはどういう魂胆があるのだろうか。戦時にリーダーを引きずり下ろして、良いことはひとつも無い。

誰でも初体験の事態にミスはつきものである。試してみて初めてわかることは多い。朝令暮改でよいのである。「確固とした方針を打ち立てて終始一貫それでやっていくべき」と言う人がいるとすれば、それはすべて絵空事である。試行錯誤のうちに実態が少しずつ見えてきて展望が開けていく、というのが現実ではないか。ミスを責め立てれば、誰でもミスを隠すようになる。そして、どのような重要情報をも隠すようになる。すると国民としては全てが信用できなくなり、何につけても疑心暗鬼になる。これでは、感染症の収束どころか、行き着く先は最悪の混乱しかない。経済の回復などは見通しすらつかなくなるだろう。試行錯誤の結果を率直に受け入れ、次につなげる姿勢が欠かせない。

3.11原発事故のとき、炉心溶融の対処についてある学者曰く「想定できるリスクを全てリストアップし対処策をうつべき」、これを聞いて驚いた。そんなことをやっている時間は無い。切迫した状況でこの道の権威であれば、「今すぐやるべき3つのこと、そしてその優先順位」があるはずである。役に立たない学者の典型例を見た。原発業界は、産学ともにこのようなレベルかとがっかりした。

原発事故と比べれば、今回のコロナ禍では真の権威ある方々が有益・有用なコメントをされているのは実に心強いことである。あるテレビ番組を見た。本庶先生と山中先生という二人のノーベル賞受章者が、それぞれの見解を示された。戦時のリーダーを支えるチームはこのような見解も参考にでき、まことに恵まれた環境である。わが国にはこのような素晴らしい資源があることに感動し安心した。

非常事態でわが国にいま必要なことは、リーダーが迅速な意思決定ができる環境づくりに尽きる。感染症の収束と経済の回復、これらはお互いに相反する施策が多くなるだろう。それらをうまくさばいていくことは、すべてリーダーの判断に任せる。前提として、リーダーが冷静に迅速な意思決定ができるような環境にする。日本の対応は「遅すぎる、少な過ぎる」と嘲笑されてきた。今回もそう言われるだろうが、気にすることはない。やっかいな感染症との対峙は時間がかかりそうであり、始まったばかりである。結果はまだ出ていない。

2020.5.10 津曲公二