• クリティカルチェーン TOCによるプロジェクト・マネジメント

津曲 公二

観光用の馬車(セビリア スペイン)
観光用の馬車
(セビリア スペイン)

故障したらすぐに修繕する

公共の設備で水道の蛇口などが故障したらずっとそのままということはほとんど見かけません。すぐに修繕や修理がされます。企業内では「修繕手配中」などのお知らせ(貼り紙)があったりします。わが国にはこのようなきめ細かい配慮や実践があちこちにあります。故障したら影響が大きいエスカレーターやエレベーターなどは定期的にメンテナンスされています。そもそも故障しないようにとの配慮も行き届いています。
海外に行くと、その国の玄関ともいうべき首都の空港でエスカレーターが故障したままというところもあります。筆者の印象ですが、わが国はこのような点では段違いにトップレベルと言えます。公共交通機関の時間の正確さも、このような取り組みの延長上にある結果と思われます。

カイゼンは一に学び、二に行動

日本企業に固有の活動として職場の「カイゼン活動」があります。サービスや製品の品質を高めるために、自分たちでできることをチームで取り組む活動です。何かが「故障したらすぐに修繕する」などは典型的なカイゼン事例です。「すぐに」やるためにはどうするか、故障をタイムリーに「どう見つけるか」、そもそも「故障しないようにできないか」など等、だんだんと難しくなってきます。従って、カイゼンのためには学ぶことが欠かせません。職場で決められた仕事を、決められた時間内でやればよいというだけではカイゼンはとても実践できません。自分の仕事をよく学び、それにもとづいて必要な行動を起こすことが必要になります。こういうことが、海外諸国に比べてわが国には苦も無く実行できています。どういうわけでしょうか?

人生で大切なこと、その優先順位は

前回の本欄で、ハーバード大学のアマルティア・セン教授の言葉を紹介しました。再度、引用します。

仏陀は、信仰の優先順位を三つ目に置いています。人間にとって大切なのは、
一に知識、二に良い行い、三に信仰です。
知識の獲得は信仰よりも大切だ、という考え方です。

「ハーバード日本史教室」(佐藤智恵 2017年 中公新書ラクレ)

わが国はもともと神道がありましたが、聖徳太子の時代に朝鮮半島から仏教が伝わりました。その仏教文化がずっと続いてきました。セン教授が注目されているのは、宗教がもたらす文化的影響力だそうです。そのように説明されると、信仰そのものより文化的に大きな影響力が継続してきた結果としての、現在の熱心なカイゼン活動にも納得がいきます。

わが国では知識を獲得すること、つまり、教育にはどの国よりも熱心でした。江戸時代には寺子屋や藩校がありましたし、明治政府が義務教育の普及に努力した事はよく知られています。この伝統は現在も続いています。就職しても社内教育があります。職場では、仕事を通じての教育(OJT)があります。上司や先輩が部下や後輩に仕事の進め方を教える習慣もあります。このような企業文化はわが国ではとくに珍しいことではありませんが、世界的にはまれなことと言えます。

進化するカイゼン

カイゼン活動はまず製造やサービスの現場で盛んになりましたが、現在では経営戦略の一環として採用されるまでに進化しています。日本カイゼンプロジェクト(一般社団法人)を主宰されている柿内幸夫氏の著書によると、次のように4つの進化の段階があります。

カイゼンの発展段階
1.0 個人や職場ごとのカイゼン
2.0 複数の職場で協働し能率向上を目的としたカイゼン
3.0 部門横断的な「知のすり合わせ」によって進化したカイゼン
4.0 経営トップの深い参画を前提とする全組織協働型カイゼン

「カイゼン4.0」(柿内幸夫 2020年 ワニ・プラス)

仏教文化に根ざした日本の特長をしっかり活かしたカイゼンが、経営戦略の一つとして発展しました。わが国の企業経営の強みを発揮するための最適なものが、またひとつ追加されました。古くからの伝統に新しい意味をもたせて価値を生み出す、じつに素晴らしい創造と言えます。