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津曲 公二

照葉大吊橋(綾町 宮崎県)
照葉大吊橋(綾町 宮崎県)

乗り継ぎ空港での忘れ物

ロンドンヒースロー空港で帰国便を待っていたときのことです。妻がトイレにリュックサックを忘れてきました。まもなく気づいて見に行ったのですが、もうありませんでした。幸いなことにパスポートは身につけていたので、帰国便には問題なく搭乗できます。困ったなと思案しているところに空港内のアナウンスで確かに妻のフルネームが聞こえました。ただ一度だけでしたが、誰かが見つけてどこかに届けたのに違いありません。成田空港には遺失物窓口がありますから、この空港にも何かあるはずと思いましたがなかなか見つかりません。ようやく空港職員を見つけてたどりついたオフィスは筆者が想像していた遺失物窓口とは異なりました。聞けば、トイレの清掃担当者が発見して届けたとのこと。空港内の一角、わかりにくいところにあるオフィスのデスクの引き出しに収納されていました。引渡しで、サインやパスポート提示などは何も求められませんでした。忘れ物や落し物を届けることや、それらを持ち主にきちんと返すシステムは無いようでした。

米国で落し物を見つけたら・・大統領または候補者の場合

米国大統領選挙運動のテレビニュースを見ました。民主党支持者が登場していました。この人は前回選挙ではトランプとクリントンいずれにも投票しなかったが、今回はトランプ大統領の言動からバイデン候補に投票することに決めたとのこと。バイデン候補とトランプ大統領をどう思うかについてのコメントに落し物を使った例えが出てきました。彼によると、バイデン氏は「道を歩いていて財布が落ちていたらすぐ持ち主に返そうとするでしょう」しかし、トランプ氏は「財布を拾ったら現金とクレジットカードを抜き取って、財布は道に投げ捨てるでしょう」(10/27 PBSニュースから) つまり、トランプ大統領はとんでもない悪人だと彼は言いたいのですね。筆者がこの話題を紹介したのは大統領をけなす彼のような意図は全くありません。感じたことは「持ち主に返す人」はやはりかなりのレベルの善人なのです。でも、持ち主に返すとしても届け先は警察署?パトカー?いずれにせよ筆者には「持ち主に返す」、その情景を想像することが全くできません。なぜなら、遺失物を「持ち主に返す」ことは社会的にそのためのシステムが整備されていないとかんたんにできることではないからです。米国にはわが国の交番などは無いようですから、持ち主に返そうと思っても届け先はどこにするのか?難しそうですね。

スペイン落し物事情・・日本人芸術家の随筆から

堀越千秋氏(1948~2016年)はスペイン在住30年の画家でした。絵画の他、随筆などにも多くの著作があります。著書のひとつ「スペイン七千夜一夜」にスペイン人気質が書いてありました。まず、「金持ちは悪いことをして儲けて金持ちになった」とスペイン人は考える。金持ちは基本的に悪人なのですね、ほとんどの人は、自分は金持ちではないから「私は(かなりのレベルの)善人である」と思っている。道に財布が落ちていたら「ここで(善人である)私が拾うことが神の思し召しである」と考えて拾ったものは自分で確保する。持ち主に返すところまでは考えない。筆者はスペインが好きで幾度か旅行していますが、この本を読む限りでは「落し物を持ち主に返す」という発想は乏しいように感じました。

国民を善人と想定できるわが国

わが国には、バス・タクシー、電車、飛行機などの公共交通機関には遺失物窓口があります。また警察署に行かなくても最寄りの交番に届けることもできます。「忘れ物や落し物を見つけたら届ける」そして「持ち主に返す」ための社会の仕組みがきちんと整備されています。遺失物窓口と交番が、そのための目に見える拠点です。これらが活用されているのは、前提として国民を善人と想定できるからでしょう。そして、その想定は現在までのところ大きな問題も無くうまくいっています。私たちの住む日本の社会にはこのような素晴らしい仕組みがあります。これは世界に誇ってよいことのひとつです。