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津曲 公二

シャトー・ディフ(フランス マルセイユ)アレクサンドル・デュマの小説「モンテ・クリスト伯」の舞台としても知られている

シャトー・ディフ(フランス マルセイユ)
アレクサンドル・デュマの小説「モンテ・クリスト伯」の舞台としても知られている

翻訳書が充実しているわが国

小学生のころ、自宅にあった少年少女世界文学全集を読みふけっていました。その中にあった「岩窟王」は他の名作とともに愛読書のひとつでした。気に入った本は繰り返し読んでも、飽きることがなくそのたびに面白く感動します。少年時代を卒業してからは原題である「モンテ・クリスト伯」として文庫本7冊を読みました。今でも7冊の順序にとらわれず、気に入った部分から読んでいます。今でも感じることは、膨大な量の原作を学童向けにわかりやすく抜粋した翻訳者の努力は並大抵のものではないということです。わが国は小説に限らず、世界的に有名な書籍については翻訳書があります。これは世界的に間違いなくトップの位置にあるでしょう。つまり、原語を学ぶ必要無く読むことができるわけです。何かを学ぶために特別な場合を除き外国語を学ぶ必要が無く、日本語だけで足りるのです。日本語による教育・研究のインフラが十分に整備されています。

小説「モンテ・クリスト伯」

アレクサンドル・デュマの作品として有名ですが、フランスの大手新聞に連載され(1844年~1846年)、その後出版されたそうです。この小説は当時素材になった実話があり、それをもとにした壮大な復讐劇として描かれています。数年前に、わが国の民放でテレビドラマも製作されました。時代背景を現在の日本に置き換えていましたが、原作愛読者の立場からも興味深く観ることができました。膨大な原作から、テレビドラマとしてどのようにつくり上げるのか大きなチャレンジだったと思いますが、大いに楽しむことができました。小説の映画化で「小説とは違う」との批判があります。製作者(監督)として原作への独自の解釈があります。原作の理解について、観客と監督とが異なってもそれは当たり前です。「私の期待とは違った」は感想ですから、率直に述べてもよいでしょう。しかし小説との対比で「あれが違う」などと批判すると様ざまな異論があってもおかしくありません。

小説で印象に残ったこと 宗教選択の権利が存在する

ヒロインのひとりとしてエデが登場します。彼女はギリシア王家の娘、つまり将来は女王になれるはずでしたが、王の部下であったフランス人士官の裏切りで数奇な運命を辿ります。そして、モンテ・クリスト伯の庇護のもとパリで暮らすことになります。パリにはかつての裏切り者が貴族として元老院議員に栄達しています。そして、その士官の息子がモンテ・クリスト伯を訪問したとき、エデの生い立ちを聞く場面があります。

ここでエデが語る生い立ちの中に「・・母が私をキリスト教で育てることをギリシア王が認めてくれた」との一節があります。つまり、生まれた子をどの宗教で育てるか、これが重要事項であったことがわかります。トルコ帝国(オスマントルコ)は多様な宗教に寛容であったので、その近くにあったギリシア王国でも宗教選択の自由があったようです。ローマ帝国においても興隆時は宗教選択の自由がありました。後にキリスト教が国教化され他宗教は禁止されました。

わが国の宗教政策

戦国時代にはポルトガルの宣教師たちによるキリスト教の布教が始まりましたが、これは布教を隠れ蓑にした侵略そのものでした。信長・秀吉・家康はこの意図を見抜き、バテレン追放令などでスペインやポルトガルなどの植民地になることはありませんでした。
江戸時代は260年もの長期にわたり平和が続きました。まさに「江戸の平和」と呼ばれるに相応しいことでした。この時代の宗教政策としては仏教に基づく「寺請制度」がありました。これは仏教を押し付ける政策というよりもある種の「戸籍管理制度」だったようです。そもそもわが国は当時から神仏習合、つまり仏教も神道も共存していました。

ところが明治政府は廃仏毀釈という仏教弾圧政策をとりました。当時の欧州列強諸国は(新教と旧教という区別はあっても)すべて一神教国家でした。極端な欧化政策の一環としてわが国も一神教にすべきと国家宗教として神道にしたのでしょう。愚かにも伝統的な神仏習合から仏教を捨て去ったのです。その後、1945年の敗戦に伴う占領政策によって信教の自由が与えられることになりました。

信教の自由ではびこっている邪悪な新興宗教

戦国時代、わが国に渡来したバテレン(宣教師)について言えば新興宗教ではありませんでした。しかし、布教の裏にある国王たちの意図は国家の侵略でしたからまさに邪悪そのものでした。現在のわが国でも、邪悪な新興宗教がはびこっています。法外な寄付金で家庭や家族関係を崩壊させ、信者だけでなく関係者を巻き込む。さらには、元首相を暗殺する前代未聞の凶悪な事件すら起こっています。