津曲 公二
建設中の西九州州新幹線長崎駅(撮影2022年5月 開業同年9月)
火薬、羅針盤、活版印刷術などの基本となるものはいずれも中国大陸で発明され、その後ヨーロッパで改良・実用化に至ったとされています。これは15~16世紀にかけてということですが、確かにわが国へのポルトガル人による鉄砲伝来は1543年のことでした。これらの発明を活用した彼らが世界を二分する時代でした。当時、ヨーロッパはアラブやアジアに圧倒されていたわけですが、三大発明によりそれを逆転しました。スペインとポルトガルで、世界を二分割しようという条約を結ぶような時代でした。
わが国は、三大発明の先頭を走ったわけではありませんが、二つの国による侵略を許すことはありませんでした。逆にこれら二つの国とは断交し、最終的には政教分離で経済のみの関係に絞り込んだオランダだけを選ぶという独自の外交政策を実行しました。そのような対外政策をとることができたのは、三大発明を活用しさらなる発明をおこないさまざまに社会を成長・発展させたからでしょう。本エッセーでは我われ日本人の最近の発明について述べることにします。
筆者の関心領域である機械製品でかつ乗り物関連に限って考えると、わが国の世界的な三大発明は年代順に次のとおりと考えます。
新幹線は世界初の高速鉄道として、1964年の東京オリンピックでデビューしました。当時は斜陽産業とみなされていた鉄道業界にあって専用軌道にするなど画期的なプロジェクトを経て登場しました。但し、当時は国鉄という組織でもありその経営判断にマスコミはつねに否定的でした。建設を推進した十河総裁は予算を大幅に超えたこともあり引責辞任のかたちで完成を待たずに任期満了で辞任。10月1日の東京駅新幹線ホームでの出発式には前任の十河総裁や島技師長、いずれも招待されなかったと伝えられています。今までに存在しなかった新規なものに対する我われ日本人の感性の無さが現われた出来事でした(出典 ウィキペディア「十河信二」)。
現在の最新タイプでは地図情報がGPSから得られるので、便利になりました。タクシーなどにはほぼ装備されているようです。一昔前のタイプから筆者は体験しましたが、地図情報がCD-ROMに収録されているタイプでした。これだと最新の地図情報は最新のCD-ROMを購入する必要がありました。けっこうな価格なので、ずっと最新版でない地図を使うことになり不便でした。1981年、ホンダが初めて開発した当初は、電子化された地図情報(CD-ROM)も無く、当然のことながらGPSも使えない時代でした。ブラウン管に地図を手でセットするやり方だったそうです。助手席に誰かいないと操作がたいへんだったろうと思います。現在では海外のタクシーでも装備されているので助かります。
エンジンは機械の領域です。ハイブリッド車はエンジンの他に電池とモーターが必要になります。機械のほかに電気の領域が必要になります。機械屋と電気屋が一緒になって工夫し協力しないとうまくいきません。わが国の組織文化として、異なる領域で協力するのは(欧米に比べれば)それほど難しいことではありません。わが国の自動車メーカーは各社ともハイブリッド車の商品化を目指していました。1997年、各社に先駆けて最速で市場に投入したのはトヨタでした。わが国のメーカーも時期は遅れても商品化しました。欧米メーカーも挑戦はしましたが、技術的到達レベルが低いままで終始しトヨタのひとり勝ちとなりました。欧米メーカーは新規なものに研究や開発をするのは苦手というか効率的な経営ではないという偏見があり、かつ異なる領域で技術者たちが協力するのは苦手なようです。ただ、ハイブリッド車で完敗したので、彼らは次世代の電気自動車(EV)への取り組みには力が入っています。トヨタはEVでは出遅れています。このあたりがわが国としては大いに気になるところではあります。
ここで紹介した三つのうち、カーナビを除く二つは既に存在するモノについての画期的な改善と分類できます。米国のGAFAM各社のように世の中に全く存在しなかったものを生み出した、というものではありません。ここにわが国の大きな特長があるようです。この特長を活かすにしても新規なものを生み出すためには様ざまな抵抗があります。これらをよく理解・認識することが欠かせないと考えます。