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津曲 公二

池田勇人元首相の銅像(広島城 東側入口)
池田勇人元首相の銅像(広島城 東側入口)

貧乏人は麦メシを食えと伝えられたが・・

これは池田勇人元首相(首相在任期間1960~64年)が蔵相のときの国会答弁(1950年12月)として伝えられています。蔵相の発言としてこれがマスコミから伝えられたので国民の反発を買ったそうです。それは当然でしょう。当時は不況のため米の価格が高騰していた時代だったからです。ところが、発言の真意は「所得の少ない人は価格の安い麦メシで不況を乗り切る、所得が多いなら米を食べればよい」ということだったそうです。これはまさに経済原則に沿った発言ですから、普通に誰でもそう考えて苦しいときを乗り切ることになります。しかし、マスコミはあえてその真意を隠して国民が反発するように伝えたのですね。政府のやることは何でも悪意をもって伝える、これは現在のマスコミも相変わらず受け継いでいる悪習です。そのような新聞社などはどんどん衰退していくことでしょう。ところで、現在の岸田文雄首相も広島県の出身のようです。本稿では岸田首相の最近の業績についての感想を述べます。

世界的にエネルギー供給が厳しくなっている

ロシアのウクライナ侵攻で世界的にエネルギー供給が厳しくなっています。自由主義の国々がロシア産の天然ガスや原油を経済制裁のため買わなくなったからです。これはきわめて当然の対応です。ロシアの軍事侵攻に対抗するために経済制裁ではなく、直接的な軍事力で対抗すれば戦火はさらに拡大することになります。これでは第三次世界大戦になりかねません。わが国もロシアから天然ガスを輸入しています。遅かれ早かれ、この天然ガスもあてにできなくなるでしょう。このような状況で岸田首相は昨年初めの欧州での記者会見で、原発再稼動の方針を明らかにしました。欧州で発言、という点がじつに興味深いことですね。

業績その1 原発再稼動の方向を決定した

この件について国内ではなく遠く欧州での記者会見で発言したことが戦略的です。遠くから観測気球を打ち上げて状況を見ることになりました。これで案外にマスコミの抵抗は無いようだとわかりました。国内の原発反対派は沈黙したようでした。それで再稼動は既定の方針のようになりました。

ここで原発稼動の意味を確認しておきます。これはわが国にとって必要不可欠の政策です。まず、わが国は必要なエネルギーのほとんどを輸入に頼っています。しかも、輸入の手段としては中東などからの原油タンカーの海上輸送しかありません。中東からわが国までの輸送距離は約12,000KM、片道20日ほどかかるそうです。この航路の安全性が将来においても保たれている保証はありません。近隣諸国にはロシアのような独裁国家である中国が存在しますし、長距離ミサイルや核開発を続ける北朝鮮もあります。航路の安全性は誰も保証できません。

安全性確保の比較

原油タンカーの中東からの輸送航路・・その安全性は誰も保証できない
原子力発電の安全性・・我われ自身の努力で極限まで高められる

原発はこれまでわが国の電源の約30%をまかなってきましたが、3.11大震災以降は2~3%までに落ち込んでいます。岸田首相はわが国にとってきわめて真っ当な政策である原発の再稼動の方向を明確にしました。実現にむけての邁進を期待しています。中東からの原油のように輸送航路の安全性の不安はありません。国内の努力だけで対応できるエネルギー源だからです。

業績その2 防衛力増強を政策として打ち出した

ロシアのウクライナ侵攻は、平和ボケの我われ日本人に対してようやく世界の現実を少しだけ知る機会を与えてくれました。この侵攻のために「防衛力増強は必要」という世論に変化しました。とはいえ、この程度の世論のみでは核やミサイルを保有する独裁国家に対してほとんど何の役にも立ちません。有効な抑止力のためには同等の防衛力をもつしかないと思います。例えば、北朝鮮向けには日本海沿岸にこちらも核ミサイル数10基を備えて「やられたらやり返す」あるいは「やられる前にやる」といった備えが欠かせないでしょう。対抗措置は他にもあるでしょう。核ミサイル数10基の装備は一例に過ぎません。

ウクライナ侵攻でプーチンの想定した「一週間で首都キエフを陥落させること」ができなかったのは、ウクライナが2014年のロシアによるクリミア侵攻でクリミア半島がロシアに乗っ取られた苦い経験によるものです。それ以来、ウクライナは独自の防衛力を蓄積してきたそうです。それにより、ウクライナ全土がロシアに乗っ取られずに抵抗を続けることができました。もしプーチンの想定したように短期間で首都キエフが陥落していたら、現在のような自由主義国家による軍事支援などありえなかったことでしょう。その場合ウクライナはロシアの属国になり、ソ連時代のような隷属する地域に逆戻りすることになったでしょう。

難問二つを政策として打ち出した岸田首相

原発再稼動と防衛力増強、わが国にとっての難問二つを岸田首相はクリアしました。与党内での勢力は必ずしも大きくはなくむしろ少数派のようです。現在の岸田首相を見て、確かに変身を感じます。筆者が思い出すのは、安部元首相が退陣し次期首相を選出するときのことです。結局、菅前首相が指名されましたが、安部さん(元首相)として後継者は岸田さんが意中の人だったと言われていました。ところが、TVニュースで見る限り当時の岸田さんには迫力が全く感じられませんでした。

変身した岸田首相

コロナ給付金は全国民ひとりに10万円の給付が決定しました。それに至るまでには別の案もありました。そのひとつに、国民全員にではなく特に困っている世帯に30万円を給付する案がありました。当時、岸田さんは与党自民党の政調会長でしたが、この案を自民党の幹事長に提案しました。その様子をTV報道で見ました。精彩を欠いていて、説得力を全く感じませんでした。後継者に指名するつもりだった(かどうかはわかりませんが)安倍さんもがっかりされたのではないでしょうか。結局、次の首相は岸田さんではなく菅さんが指名されました。このときを振り返ると、現在の岸田首相は別人になった感があります。二つの難問に政策としての道すじをつけたのが、その変身の何よりの証明です。

国民の大多数が保守党を支持しているのは何故か

筆者は保守党支持者ですが、野党の体たらくと無能さは決して良いことではありません。現在の野党の状況では保守党は安心しきって緊張感が無くなっていきます。野党には、ときの政府に対する厳しい指摘で国民のための政治に軌道修整させる役割があります。ところが、現在の野党はそのための知性(知的能力)がまるで欠けています。

例えば、揚げ足取りのようなことばかりです。「私ならこうする」といった魅力的な対案の提示がまるでできていません。対案を提示し、国民が聞いて「なるほど」と思わせることができないのは知性に欠けているからです。国民は保守党の政治に対して全面的な信任を与えているわけでは無いと思いますが、野党の知的レベルの低さにはあきれている、とても任せられないといった状況だと感じます。岸田首相の敵は野党ではなく政権与党内にあるのでしょう。原発再稼動や防衛力増強などわが国のための政策を次々と打ち出して実践に結びつける、政権安定のカギはこのような常識的なところにあるのではないでしょうか。