• クリティカルチェーン TOCによるプロジェクト・マネジメント

津曲 公二

休日にボート漕ぎを楽しむ人たち 高千穂峡(宮崎県 高千穂町)
休日にボート漕ぎを楽しむ人たち
高千穂峡(宮崎県 高千穂町)

世界的なわが国企業の創業者たちが生み出した経営哲学

本稿では京セラ創業者である稲盛和夫氏、ソニー創業者のひとりである盛田昭夫氏、このお二人についてそれぞれの経営哲学を述べることにします。

アメーバ経営 実践哲学として世界に普及

わが国の経済界で、アメーバ経営という独自の経営哲学に基づき大きな貢献をされた稲盛和夫氏は先月逝去されました。アメーバとはご存じのように単細胞の原生動物のことです。アメーバ経営とは、まず小さなまとまり(数名程度の少人数)で仕事をする組織が前提となります。この小さな組織(チーム)がアメーバになります。このようなチームがたくさん集まって課や部になり、最終的には多くのチームの集まりが企業そのものになります。こういう活動のメリットは、まず基本は小さな組織(チーム)ですから、自分たちのやったことが結果に直接反映します。やりがいが感じられるし少人数のチームですからコミュニケーションも良くなる。いわゆる全員参加型の経営として大きなメリットがあります。細分化したチームごとに収支責任を明確にできる、つまり部門別採算も数字で見える化されることになります。

もちろんメリットがあればデメリットもあります。組織が縦割りになって自分の組織が最優先になれば横の連携ができにくい。また、組織間の競争や個人間の競争が過度になりワークライフバランスがとれなくなるといったことも指摘されていました。しかし、このようなデメリットを最小化しながら、アメーバ経営は多くの企業で採用されてきました。企業経営者がアメーバ経営を学ぶための盛和塾の活動も活発でした。アメーバ経営は、何よりも個々の持ち味を活かすというわが国の文化をしっかり踏まえた経営手法であった、これが最も重要なポイントであると筆者は考えます。

おみこし経営とボート経営 世界を俯瞰する思想を提唱

ソニー創業者のひとりである盛田昭夫氏が、日米両国における自らの経営者としての体験から抽出された経営哲学を発表したのは1969年のことでした(「新実力主義」 文藝春秋)。

日本はおみこし経営

道幅いっぱいにあっちこっちに動き、ジグザグにねり歩く。
経営者は目標や方針を示すが細かいことには口を出さず、指揮らしい指揮はとらない、
スタートからゴールまでの行動は効率が悪い。

米国はボート経営

経営者の強いリーダーシップが大前提となる。
ボートのこぎ手は前を見せてもらえず、ボートがどこへ向うのかはリーダー任せ、
メンバーは後向きに坐ってただこぐことにのみ専心する。
能率の点からみればもっとも効果的であり、能率の上らぬメンバーははじき出される。

結論 おみこし経営のほうが優れている

ボート経営

ボートの運命が一人の手ににぎられていることで危険度が高い。
一人のリーダーに運命を左右されることの恐ろしさがある。

おみこし経営

一人や二人が横むきの力を出しても、まあまあ、大体の方向は間違わずにゆらゆらと進んででゆく。
上にのっかるおみこしは何もいわずに太っ腹にのっかっていた方がよい。
なまじ号令をかけるとボートのようなあやまちをおかす。
ボスは、ワンマンであるよりはハラの太いもの言わぬ大ボスであるほうがより良い

世界的な企業の創業者 お二人それぞれの貢献

稲盛和夫氏はわが国の企業にアメーバ経営を広く普及させるだけでなく、わが国の航空大手JALの経営再建では中心的役割を果たされました。また、京セラの経営にあたっては工場を地方都市に分散立地させ、地方経済の活性化に尽力されました。まさに政府がやるべきことを自ら率先実行されました。企業は、規模の大小に関わらず自社の利益を最優先しがちですが、わが国全体を俯瞰した取り組みは他に例を見ないことでした。

現在のわが国経済界は、とくに大企業に著しいのですが、中国べったりから脱却する気配は全くありません。わが国の安全保障などカケラも考えていないようですが、国内に回帰し地方経済の活性化とわが国社会全体の安定を指向する経営者は本当にいないのかと残念でなりません。

盛田昭夫氏は日米両国における自らの経営体験から、わが国はおみこし、米国はボートという実にわかりやすい例えで両国の差異を説明されました。これは経営哲学を超えて両国の文化論に発展するものでした。この背景には米国の一神教があり、わが国の八百万の神々(多神教)があることを筆者はたびたび述べてきました(直近では前回のエッセー第122回)。

おみこし経営のほうが優れているという結論とは真逆である、ボート経営のような発想の整理統合や合理化を薦める外国人の経営コンサルタントもいました。一時は経営にはまるで無知なわが国政府すじから重用されることもありました。しかし、わが国の経営者が、とくに中小企業の経営者が真剣に耳を傾けることはありませんでした。おみこし経営は当たり前で空気のような存在として定着しています。このことがわが国社会の安定に大きく貢献していることは間違いありません。

お二人それぞれに自社のことだけに閉じこもるのではなく、広く世界を見渡してわが国社会全体の安定や発展のために尽力されました。このような経営者の後に続く方々が輩出することを期待しましょう。