• クリティカルチェーン TOCによるプロジェクト・マネジメント

津曲 公二

「スリ注意」の日本語アナウンスを聞いたことがあるバルセロナの地下鉄(スペイン)
「スリ注意」の日本語アナウンスを聞いたことがあるバルセロナの地下鉄(スペイン)

頻発する自然災害

強烈な風雨のため、九州をはじめ各地で河川の氾濫や土砂崩れが起こり大きな被害が起きています。ニュースで被災者のお話しとして「ここまで増水するとは生まれて初めて」といったことも聞きました。100年に一度などではなく、印象としてはほとんど毎年のように相当な規模の自然災害が起きている感じがします。九州地方では、既に1週間も警報が連続しているそうです。

行動を促す警報

災害の頻発に対応して、気象庁の警報や注意報なども変りました。いざというときにとるべき行動が直感的にわかるように警戒レベルを5段階で表示しています。
例えば、河川氾濫の場合の最高レベル5は「氾濫発生情報」となります。この場合は「命を守る最善の行動をとる」を伝えています。ひとつ下のレベル4では「氾濫危険情報」が出され、このときのとるべき行動は「避難する」となります。大雨の状況で氾濫の恐れがあるとき、「危険情報」や「発生情報」などの警報を聞いたら、何らかの行動をとるべきという切迫感が起こり、住民が速やかに行動するための引き金になります。

新造語東京アラート

今回の感染症対策に際して「東京アラート」という新造語が東京都で出され、警報または注意報らしい取り扱いがされていました。この状況では、どうやったら感染症の蔓延を防げるかということが東京都と都民から強く要請されていたはずです。そのために強弱をつけた注意喚起をしたいのであれば、気象庁の警報や注意報などのようにわかりやすい表現がぴったりだったでしょう。なぜ「アラート」なのか?英語をカタカナで表現するのはどういう意図があるのか?最も大事なことは、都や隣接する県の住民にこれで明瞭に伝わるかどうかです。結果的に、意図が理解できない、切迫感が全く感じられない変てこな言葉遊びの類でした。いつの間にか消えてしまいました。

わざわざ理解しにくくしている

マスコミがこぞって使う「ソーシャルディスタンス」も同じ疑問をもちますが、こちらのほうがまだ少し罪が軽い。外国語をそのままもってきただけですから。しかし、なぜ「安全距離」または「安全間隔」などと意訳しないのでしょうか。そのほうが、誰にでもぴたりと伝わるはずです。別の事例ですが、ある自治体のホームページ、防災対策の欄に「マイタイムライン」が目につきました。これは記載した担当者もさすがにこれだけでは理解できない住民もあると思ったのでしょう、続けて日本語が書いてありました。「わが家の防災計画」だそうです!「マイタイムライン」という名称は、その自治体の全ての住民に対して円滑に理解できるとはとても思えません。なぜ、「わが家の防災計画」としなかったのでしょうか。これは東京都の場合とは異なり、変てこな言葉遊びではないようです。防災対策との関連での意味はそれなりに合っています。しかし、住民への広報や啓蒙活動のためには断然「わが家の防災計画」ではないでしょうか。今からでも遅くは無いので修正したほうが、住民の防災意識は高まることになるでしょう。

的確な意訳と語彙を

自治体を含め公共性の高い組織においては、情報発信において受け手に間違いなく届く工夫や気配りが欠かせません。企業の職場や個人の生活でも、受け手の理解できない言葉を多用することは配慮の足りなさが目立つばかりで、良いことはひとつもありません。さらに、外来語をそのまま多用することも同じでしょう。世界は急速に変化していますので、従来の日本語に無い概念も増え続けています。的確な意訳や工夫した語彙をつくり出していくことが、母国語をたいせつにすることであり、わが国にふさわしいやり方と思っています。