津曲 公二
世界的な脱炭素の潮流の中で、世界の自動車メーカーではガソリンエンジン車から電気自動車(BEV)への転換が進んでいます。わが国の自動車メーカーでは、BEVだけでなく燃料電池車(FCV)や水素自動車(H2V)などの開発が進められています。とくに世界的なトップメーカーであるトヨタは、BEVでは明らかに出遅れたもののFCVやH2Vなど考えられる選択肢をすべて手がけていくようです。トヨタ社長としては「すべて本気でやる」とテレビCMでさかんに発信されているのはご存じのとおりです。本エッセーでは、わが国の自動車大手3社の最近の状況について、筆者の感想を述べることにします。
水素自動車は従来のエンジンを基本に燃料として水素ガスを使うクルマです。世界的に見て手がけているのはトヨタだけのようです。アルファベット3文字の略称が見つからないので、本稿では水素ガスを意味するH2からH2Vとしています。
2021年6月から予約注文を開始したSUVタイプの日産アリアは、世界初の量産型電気自動車である日産リーフに続く第2弾となる商品でした。本エッセーで繰り返し述べてきたことですが、昨年(2021年)の世界のBEV販売台数は650万台(前年比 109%増)でした。2010年世界初のBEVであるリーフで先行した日産はメーカーとしてランキング圏外でした。巻き返しを期待されるアリアですが、専門家の評価はきわめて悪いものでした。
筆者が参考にしているのは、YouTube チャンネルの「EVネイティブ」です。EVについて、テスラを初めとして各メーカーのクルマを試乗して自身の率直な見解を述べています。従来の自動車評論家とは異なり、メーカーに気兼ねしない自身の体験をきちんと述べているところが、筆者の信頼のよりどころになっています。
ここでは、「1000KMチャレンジ」というテストがあります。東名高速を往復し1000KMを何時間で走行できるか、その時間を計って電気自動車をテストしています。従来のガソリン自動車でしたら、このようなテストにはほとんど意味がありませんが、電気自動車の場合は途中で何回か充電の時間が必要ですし、暖房を入れると電池をかなり消費するという特徴があります。ということで、1000KMチャレンジにはBEVの電池性能や実用性についての的確な指標となっているようです。
1000KMチャレンジの結果はきわめて悪いものでした。基準となるテスラ(Model 3)の所要時間は11時間を切るものでしたが(10h45m)、今回テストしたアリア(B6 Limited)は13時間を超えるものでした(13h25m)。評価者はリーフより悪いとして、その主因はアリアのバッテリーの冷却システムがうまくいっていない、冷却性能が不十分で充電性能が劣っているとしています。
いざ充電しようとするときフルパワーで充電できないことは、電気自動車の本質に関わる大きな問題です。こうした基本的な問題に対処出来ていないところに、メーカーとして本質的な欠陥があると思います。2010年に世界に先駆けてのリーフ発売以来の知識や経験はどうなっているのでしょうか。
BEVでは出遅れていたトヨタですが、発売から1ヶ月が過ぎて重大な不具合が見つかり販売を停止したそうです。しかもその不具合の内容に驚きます。BEVに固有の電池の不具合などではないのです。出典記事によると、急旋回や急ブレーキを繰り返すと最悪の場合、タイヤが脱落するというものだそうです。日本の大手自動車メーカーにおいて、今ごろになってこのような初歩的な不具合はきわめてまれなことです。これを知ったとき、筆者はトヨタを陥れるための陰謀ではないかとすら感じました。タイヤが脱落すると言えば、三菱トラックでのリコール隠し事件を思い出します。さすがにトヨタはこのようなまずい情報もすぐに公開しました。それにしても腑に落ちないことです。トヨタのBEV市場への展開は、また一段と遅れることになるでしょう。(出典Business Journal 2022.07.03)
トヨタの社長はレースが大好きなようです。レース用に仕立てたクルマで水素ガスを使ったこれからのクルマ(H2V)をさかんにアピールしています。従来のエンジンを基本にするので、一見、有利なように見えますが、今のところ世界の潮流にはなっておらずトヨタだけの取り組みのようです。商品開発の将来性について、筆者を含めた素人の意見は様ざまです。筆者は全くムダな取り組みと思っていますが、素人の思い込みに過ぎないかもしれません。これについて、素人ではない、ホンダの社長の見解を見つけました(YAHOOニュース 2022.06.22)。
株主総会において株主からの質問に応えたものです。それは、現時点では電気自動車(BEV)と燃料電池車(FCV)が今後の主力となること、水素エンジン車(H2V)は、2010年に開発を中止した(今後の開発を否定)、このような回答だったそうです。トヨタの社長は、テレビCMに登場してH2Vも本気と連呼されています。ホンダ社長は質問があったので開発は中止したと回答されました。両者の見解は対照的ですが、結果はどうなるかいずれ判明することでしょう。