• クリティカルチェーン TOCによるプロジェクト・マネジメント

津曲 公二

コスモスポーツ(1964年 第11回東京モーターショー)同社HPから転載

コスモスポーツ(1964年 第11回東京モーターショー)同社HPから転載
マツダが世界初のロータリーエンジン搭載の試作車を展示
騒音・振動が少なく軽量・コンパクトなロータリーエンジンは世界の自動車
各社が競って開発に着手したが、量産化に成功したのはマツダだけだった

この半世紀 世界をリードした日本の自動車メーカー

1900年代初頭、米国のフォード社が開発した大量生産方式によって自動車工業は世界的な産業として、先ず米国で発展しました。それから100年余りが経ち後半の50年について言えば、技術的な革新はトヨタを初めとする日本勢が世界をリードしてきました。

例えば、1972年ホンダが発表したCVCCエンジンは、当時世界一厳しい排ガス規制と言われた米国マスキー法を世界に先駆けてクリアしました。日米欧の全ての自動車メーカーが開発競争を続けていましたが、ホンダが先陣を切ることになりました。

次に1997年トヨタがプリウスに搭載したハイブリッドシステムは、画期的な燃費改善を実現しました。国内や海外のメーカーも追随しましたが、トヨタの圧倒的な市場への普及拡大を止めることはできませんでした。つまり技術的にも販売面でもトヨタの完勝だったと言えるでしょう。

また、これから脱炭素の世界で主流となる電気自動車(EV)については、2010年日産が量産型EVである日産リーフを世界初で販売開始しました。当時は脱炭素のような世界的な追い風も無く充電スタンドなどの社会インフラも皆無のところから孤軍奮闘を続けてきました。

3社に代表されるわが国の自動車業界は、それぞれのチャレンジで世界をリードしてきました。

電気自動車(EV)で大きく変わる世界の自動車業界

本エッセーで繰り返し述べてきたことです。脱炭素に向けて、世界の自動車業界はEVへの転換という大きな潮流が動き出しています。これまでのクルマはエンジンと言う難問(難しい技術)がありました。例えば、中国勢はエンジン技術を自らのモノにすることはできませんでした。自動車では老舗であるはずのドイツ勢も、ディーゼル排ガス規制では技術的に対応できず不正に走るという前代未聞のスキャンダルを起しました。日本勢はどの企業もそろって、エンジン技術の面で他国を圧倒するレベルに到達したことは間違いありません。

しかし、EVの時代になるとこれまでのような日本勢の強みは今のところ見つかりません。EVの場合、モーターと電池というシンプルな構成になるからです。部品点数もこれまでの1/3になるということです。つまり、世界の自動車メーカーの競争は横一線の同じスタートラインから始まることになりました。

とはいえ、日本勢はスタートにおいて、つまり初戦の段階では完全に出遅れています。昨年(2021年)の世界EV販売台数は650万台(前年比 109%増)でしたが、わが国のメーカーではEVで先行したはずの日産ですらランキング圏外でした。また、トヨタやホンダは世界で戦えるEV商品が無かった、という状況です。

電池を制するものがEVを制する

EVの場合、これまでのエンジン車のような難問は無く、モーターと電池というシンプルな構成になると述べました。しかし、電池の性能とコストには大きな革新の余地が残されています。従って、世界の各社とも電池の安全性や耐久性の向上、容量の増大や軽量化、そして大幅なコストダウンを目指した開発に取り組んでいます。電池を制するものがEVを制する、という状況になっています。わが国の3社は、それぞれ電池の研究開発には重点的に取り組むと発表しています。これに対して、欧米のメーカーは報道による限りではあまり熱心ではないように感じます。成功が不確実な投資はしたくない、良いものができたらそこから買えばよいという安易な方針なのかもしれません。つまり、わが国の3社のようなチャレンジ精神は無いということです。このようなチャレンジ精神が、日本勢の強みになることを期待しています。本稿の締めくくりとして、次にトップ3社のこれからについて筆者の感じることを述べます。

大変動の時代に生き残るために

日産はEVで世界初となる日産リーフを発売しましたが、それが現在の販売実績につながっていません。先月発表した軽自動車のEV日産サクラは商品力も高く、発表から3週間で購入予約が1万台を超えたと聞きました。とはいえ、日産は消費者からは何をやっているかよく見えない会社です。EVで勝負するなら、先行者としての立場を活かした商品系列を発表するなどがあってよいと思いますが、それは無い。ガソリン車ではEVシステムを活かしたeパワーなどのヒット商品がありますが、企業としての個性に結びついていません。消費者向け商品の企業として、規模と技術はあるのに顔が見えない、もったいないというひと言に尽きます。

トヨタはハイブリッド車の成功でEVが完全に出遅れました。トヨタの圧倒的な技術力をもってすれば、EVの出遅れなどあり得ないことでした。同社で初となるEV(bZ4X)は、一般消費者向けには売り切りの販売はなくサブスク契約のみです。開発陣の自信の無さが伺えますが、消費者はそれを見抜いています。全国で3000台(第1期分、初年度としては合計5000台)という契約枠がすっきりとうまっていないのは、トヨタという企業に対する信頼は不動であっても、EVという個別の商品についての信頼はそれほどではなく様子を見るということでしょう。これに限らず、トヨタの信頼感喪失の元凶は、すべて豊田社長にあります。TV-CFに頻繁に出演する社長など見苦しく評判を下げる以外の何ものでもありません。大喜びしているのは放映するテレビ局と広告制作会社だけでしょう。社長による独りよがりの愚かな行動が続くことになれば、名実ともに世界のトップ企業の地位が大きく揺らぐことを憂慮します。トヨタは豊田社長の占有物ではなく、わが国の自動車産業を支える大きな屋台骨そのものです。社長は就任から13年になるそうですが、愚かな行動や発言はいつまで続くのでしょうか。現状のトヨタを見ると、トヨタのみならずわが国自動車業界が衰退の道を歩いているように感じます。

ホンダはわが国の期待の星であり続けています。創業者本田宗一郎の夢であったホンダジェット開発に成功、2015年4月に初めて日本の空を飛び宗一郎氏の悲願を達成したと話題になりました。小型ジェット機の分野で2017年から5年連続世界一を記録しています。創業者から数えて、現在の三部社長は9代目になるそうですが、ホンダスピリットはきちんと受け継がれているようです。ソニーが異分野であるEVに取り組むと発表しましたが、協業するパートナー企業はホンダでした。両社ともに、他がやらないことにチャレンジするという文化は共通しています。三部社長はF1からは完全に撤退し、その資源を将来のEV時代に備えるなど、企業の方向性をわかりやすく発信しています。本年4月22日、社長による記者会見がありました。今後の電動化に向けた進捗と将来への事業変革についての説明でした。メーカーに対する消費者の信頼とは、このように必要なときに経営トップが直接語りかけることではないかとつくづく感じました。