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アルビータプラザでのセミナー風景(モスクワ ロシア)
アルビータプラザでのセミナー風景
(モスクワ ロシア)

ロシアで日本の優れたマネジメントを伝える

筆者は、2015年から毎年1回ロシアに出張しています。これは、日本文化の広報活動に取り組んでいるロシア日本センター(外務省支援の現地組織)の招請によるものです。わが国のビジネス領域での文化として、優れたマネジメントのひとつに組織の小集団活動である改善活動があります。筆者は、この活動を紹介するセミナーの講師を務めています。
これまで5回の出張で、モスクワ、サンクトペテルブルクなどロシアの主要都市を含む延べ20都市を訪問しました。現地企業の経営者、管理職や個人商店主などの方々向けセミナーで受講者は1500名ほどになりました。通訳つきのセミナーは二日間ですが、終了後は現地企業の訪問もあります。ロシア民間企業の現状について見聞を深めるまたとない機会になっています。

ロシアの人たちは親日的

ロシア訪問はこの機会が初めてでしたが、これまでもっていた先入観と大きく異なることがひとつありました。それは、筆者がおつき合いしたロシアの人たちのほとんどすべてがわが国に対して大きな尊敬をもち好意的であるということです。それは、日本センターのロシア人スタッフ(主なスタッフは日本人だが、ロシア人もスタッフとして勤務)、通訳の方々(日本に留学経験のある方も多い)、各都市でのセミナー主催事務局の方々(主催者としては地方自治体、商工会議所、大学、たまに民間企業など)、セミナー受講者の方々、訪問した現地企業の方々などです。これらのすべての人たちから日本のマネジメントだけでなく、日本人や日本社会に対する大きな尊敬を、ときには大きなため息を伴う羨望も感じました。今回は、モスクワで開催したセミナーでの体験を紹介します。

受講者からの質問とその回答

モスクワ会場でのセミナー第1日の2時間ほど経過し休憩のとき、ひとりの受講者から次のような要望(質問)がありました。「日本には終身雇用という制度があると聞いた。ロシアとは、社会・文化・価値観に大きな差異があるように思う。まず、そのような差異について説明してもらえると、これからのセミナーをよりよく理解できるのではないだろうか」。あとで知ったのですが、この方は中堅企業の経営者でその後のチーム討議でも活発に発言されていました。それはともかく、これまでのロシア出張でこのような要望は初めてのことでした。そこで、同行の講師と二人で相談し、当日午後のセミナー再開時に合わせて四項目を説明することにしました。

① 終身雇用制度がある・・質問された件。社会的慣習として認知されている(雇用契約そのものは存在しない)。近年は見直しの動きが加速している。
② 社会に階層がない・・出身や学歴に関わらず取り組む姿勢や実績が正当に評価される 
③ 失敗は成功のもと・・一度失敗したとしてもそれで終わりにならない。再チャレンジの機会を与えることが良いマネジメントとされる。
④ 良いとこ取り・・よそでうまくいっていることは素直にやってみる国民的気風。

「終身雇用制度」はわが国でも見直しの動きがある、それは現在のような時代においては企業の業容そのものが変化する、入社以来ずっと同じ仕事を保証することはできないために制度は変化せざるを得ない。このような説明をしました。ずっと同じ企業で同じ仕事を続けられる、といった従来の制度は衰退するとの説明に質問者は納得された様子でした。

社会に階層が無い日本

「社会に階層が無い」は、驚きをもって受けとられました。同行した講師は日産自動車の出身でした。セミナー開催当時の同社社長と同期の入社であったことや入社時は将来社長になるような特別な人物には見えなかったことなどのエピソードを紹介しました。また、日本のほとんどの大手企業の経営者はほぼそのような人物であることに受講者はあらためて日本社会に階層が無いことに驚かれた様子でした。
欧米は明らかに階層社会です。例えば、米国ではコロナ禍がきっかけで人種差別に対する大規模な抗議デモが起こりました。さらにそれが欧州にも波及しています。つまり、以前から存在したコロナよりも深刻な社会問題が激しく一気に噴出しています。わが国は、欧米のように何かにつけ暴動になるような社会矛盾や鬱積した怒りなどは皆無と言ってよいでしょう。わが国が階層社会では無いことが大きく寄与しているからと考えます。

ロシアに限りませんが、外国に出かけるとわが国の良さが少しずつ見えてきます。日本は社会に階層が無い、という素晴らしい国です。

2020.6.29 津曲 公二