冨永 宏志
私の提案、新型コロナ禍を収束させたら「社内イベントを拡大しませんか」、これを前回のプロジェクトマネジメントの視点に続き、今回はコミュニケーション向上の視点から「社内イベントの中止や縮小は、大変もったいない」をお伝えします。
米国シリコンバレーで2019年5月に日系企業主催の第6回シリコンバレー大運動会が開催されたことをご存知でしょうか。日本人や米国人の従業員と家族400名弱が、チーム対抗で大玉転がし、障害物、騎馬戦、リレーなど日本式運動会で毎回盛り上がっています。
また、シリコンバレーのさまざまな米国企業では、上司や同僚たちによる懇親会、同業他社の人たちを招いての意見交換会などのコミュニケーション方法を採用しているそうです。
ある日本の会社で運動会を20数年ぶりに再開したニュースを聞いた視聴者から「絶対参加したくない」「そんな会社いやだ」「地獄のようなニュース」などのネガティブツイートが多いのに、なぜ米国で採用している企業が出てきたのでしょうか。
上記の米国企業は円滑なコミュニケーションの確立を重要な課題と認識しています。米国は多様な文化をもつ人々の集まりです。使う言語もさまざまで全国民が英語を話すわけでもありません。例えば通常使う言語の割合は、全米で英語80.0%、スペイン語12.4%、その他の言語(中国語、日本語など)は各1%以下で、英語以外を使う人が約5700万人、英会話がおぼつかない人はその半数2500万人だそうです。
ちなみにシリコンバレーの都市サンノゼでは、英語以外55%、英語45%と 全米の割合とは逆転しています。多様な言語が使われる地域の企業では、従業員間の円滑なコミュニケーションが企業活動そのものを進めるために必須であることが理解できます。そんな彼らには「日本企業では、円滑な企業内コミュニケーションが構築されている」と見え、そのための手段が社内イベントを含む日本式やり方にあると考えたことが大運動会採用の理由だったようです。
では、我々が安易に中止や縮小した社内イベントのどこにそのような魅力があるのでしょうか。
社内イベントには、「わが社、うちの部というような帰属意識の醸成を図る」目的があったと思います。しかし「仕事は仕事、遊びは遊び」と公私を明確に区切り、「同じ会社の人との5時以降のお付き合いは別」といった意見を持つ方が増えたことが社内イベントを中止や縮小に導いたように思います。
しかし、縮小が増えた時期あたりから「チームビルディングが苦手で、仕事を何とか独力で解決しようとする」タイプのコミュニケーション力が不足した人たちが増加しているように筆者は感じています。仕事はただひとりだけでは大きな成果は得られません。それどころかひとりで悪戦苦闘しても、なかなか課題を達成できず大きな傷になりかねません。そうなれば、本人が落ち込むだけでなく周囲の人たちにも相応の迷惑をかけることになるでしょう。
筆者が経験した一例です。「トラブルが起こったら早めに周りの同僚、先輩、上司に相談すれば、傷が小さいうちに解決できる可能性がある」、これはわかっている。しかし、どうしても目に見えない壁があって相談できなかった」と、自分でも認識しているのにその一歩を踏み出せない人もいました。
実際、社内イベント活動は懇親の機会であるとともに、このような問題の解決につながる手段になりえるのです。
社内イベント活動は、日頃あまり接触がない従業員が、一緒に同じ目標達成を目指す場をつくり出します。そのことが周りの人たちとの会話を生み、共に考えることで一体感の醸成を図る時間でもあります。かねて会話したことがないさまざまな人たちとコミュニケーションを取り、お互いを認識し合うことは、自身の人的ネットワークをつくることになります。この人的ネットワークは、仕事上でも何か問題が発生した際に気軽に相談できる相手を得ることにつながります。
「チームのメンバーが不安を抱えることなく、自分の考えを自由に発言でき、行動に移すことができる」という「心理的安全性」のある職場の環境が必要です。そのような円滑なコミュニケーションが取れる職場では「一人で抱え込んでしまう」問題の解決もうんと容易になることでしょう。
コミュニケーションの向上に役立つ社内イベントの拡大は、そのような職場をつくり上げるための効果的な手段となるはずです。
今年のシリコンバレー大運動会は、残念ながらコロナ禍の影響で休会となったようです。主催者によると来年は再開するとのこと、開催を期待したいですね。
皆さん、社内イベントの中止や縮小は、大変もったいないことです。コロナ禍を収束させたら ぜひ「社内イベントを拡大しましょう!」