冨永 宏志
皆さん“おそろしあ”という言葉を聞いたことがありますか?古文の表現ではありません。
“恐露西亜”、“おそロシア”と表示され、民主主義と対立する社会主義の大国だったソ連を継承する「恐ろしい=怖い とロシアを掛けたシャレ」が語源です。
筆者は、2018年10月ロシア日本センター主催のKAIZEN講座(アルハンゲリスク、オレンブルク、キーロフ、カルーガなど4都市)に講師として参加した経験が“おそろしあ”の意味を大きく変えました。それを紹介します。
ソ連によるポツダム宣言を無視した日本人のシベリヤ抑留、終戦時の北方領土不法占拠、2014年ロシアによるクリミア半島侵攻などの歴史的事実とハリウッド映画が描くイメージ「正義の米国、西側諸国に対する悪役(ヒール)のソ連、ロシア、東側諸国」が、“怖い”となった理由でしょう。さらに筆者には、20数年前にトランジットで5時間ほどモスクワのドモジェドヴォ空港を利用したのが、その思いを決定的にしました。
薄暗い空港内の狭いトランジットロビーや通路、免税店が並び、その上どのお店のスタッフも、“にこり”ともしません。さらに日本でまず経験することが無い全ての出入り口に自動小銃を抱えた大柄の軍人の歩哨がいたのです。この暗くて怖い印象が強烈でした。
2018年10月ドモジェドヴォ空港に降り立った途端に明るい空港とお店のスタッフの笑顔がありました。さらに軍人の姿も見えません。また訪問先都市全ての会場がある大学周辺には、明るくおしゃれなカフェやレストラン、お店が立ち並び、歴史ある劇場、博物館も美しい所でした。筆者の暗い思い出は、まさに一掃されました。
講座会場の4つの国立大学の学長は、半数が女性でした。また講座支援を担当された大統領プログラム修了者のエリートの方たちも4割ほどが女性です。
ロシアは、初婚年齢24歳、初出産24.6歳と若くに結婚、出産されるそうです。しかし離婚率80%とは驚きです。※出典 世界ランキング 国際統計格付センター
わが国では“女性が活躍できる社会”(女性の社会進出)となるための仕組みが必要と言われていますが、ロシアでは一部が実現しているようです。具体的には、「男女間の社会的格差がなく、女性も男性と同じ賃金の仕事に就ける」「国営の安価な保育園が利用できる」など女性が社会に出やすい制度があり、さらにシングルマザーに対する社会の偏見がない、などと聞きました。
講座の参加者は、日本を尊敬していることが強く感じられました。実際ひとりとして居眠りをする人もなく“何でも吸収しよう”と集中し取り組んでいました。筆者が担当する国内のセミナーでは、久しく感じられない雰囲気です。
彼等からは、気になる事があればすぐに質問が飛んできます、答えられなければ信用されないような緊張感のある講座でしたが終了後に大きな充実感を得るものでした。
また懇親の場でも、「よく食べ、よく飲み、明るく、自分の意見を持つ方たちばかり」でした、近々来日予定の方と東京で再会しましょうとお約束してしまうほどの若者たちです。ただ皆さんアルコールに強かったのには少々閉口で、とても最後まで付き合いきれませんでした。
今回のロシア訪問で、親日的で女性が活躍し日本から学ぼうとする明るく前向きなロシアの人たちの国であることの発見が“おそろしあ”の意味を変えました。
2014年英BBC放送が24か国で実施した世論調査「良い影響を与えている国ランキング(好感度調査)」です。
2011年から2014年までの平均で
・ロシアに対する日本人のイメージ 良い:12.3% 悪い:29.8%
・日本に対するロシア人のイメージ 良い:57.8% 悪い: 9.5%
日本人の持つネガティブなイメージに対しロシア人は、日本に好意を持っているようです。まるで片思いのようですね。
ロシアでのコロナ禍は、感染者が90万人を超え、死者は1.5万人という感染状況ですが、8月11日にロシアで世界初の新型コロナウイルスのワクチンが承認されたニュースがありました、効果がコロナ収束に向かうことを祈っています。
今年ロシア大統領の終身化を実現する憲法改正で独裁国家へさらに踏み込んだ“おそろしあ”ニュースもありましたが、コロナ禍が収束したら素晴らしい文化芸術がある親日のロシアの人たちの国を訪問されてみてはいかがでしょう。
ただし、でこぼこで段差のある道路、あちらこちらにある階段、プラットフォームが無い駅や短時間の横断歩道青信号などバリアフリーはほとんど望めません。訪問される方は十分足腰を鍛えることをお勧めします。