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第147回 あるべき水準に達していない新幹線の安全対策 ~開業以来無事故という輝かしい記録の裏側に残る大きな不安

津曲 公二

非常時に列車から脱出するとき、窓ガラスを割るためのハンマー

非常時に列車から脱出するとき、窓ガラスを割るためのハンマー
スペインなど欧州では新幹線に限らず、在来線電車や乗合バスにも必ずこのようなハンマーが設置されている。

わが国の新幹線は世界一

本エッセー第145回でとり上げました。まず、基本的な考え方が秀逸であることをとり上げました。

①専用軌道により上下線を完全に分離する
欧州の鉄道では、このような上下線完全分離が無いために正面衝突事故が絶えることがありません。つい最近もギリシアで悲惨な列車衝突事故がありました。

ギリシア北部で2月28日に発生した同国史上最悪の鉄道事故についてキリアコス・ミツォタキス首相は1日、現場を視察し事故原因はすべて「悲劇的な人為的ミス」だと述べた。

BBC NEWS JAPAN 2023.3.02

新幹線の前提として専用軌道で上下線完全分離、かつ踏み切りも廃止して衝突事故は根本的に無くすことが前提でした。

②全線をすべて電化する
他の国ではディーゼルエンジン発電による電気機関車で牽引する新幹線も存在しました。わが国の場合、計画段階から全線電化は基本条件でした。そもそも内燃機関により発電し電源を供給する方式などは一顧だにされなかったと思われます。

③動力分散方式(機関車無し)により軽量車体で高速化する
これも当初からの前提条件でした。機関車はその重量ゆえに軌道の地盤強化工事がかさむことが難点でしたが、これを回避することができました。

これらは米国で初めて計画され実現に動き出しているテキサス新幹線においてもそっくり適用されています。わが国の新幹線は世界のデファクト・スタンダードになったと言えます。唯一、世界標準になりえないのは、安全対策です。テキサス新幹線で指摘され、JR東海はここを受け入れざるを得ませんでした。

旅客輸送の安全対策 まずはハード面

飛行機・鉄道・自動車・船舶など旅客輸送のための輸送機関にはそれぞれの安全基準が設定されています。筆者はその方面の専門家ではありませんが、わが国新幹線の安全対策は大事なところであるべき水準に達していないと考えます。ここで「あるべき水準」とは、わが国の新幹線には装備が無いが、他の国の新幹線にはあるもの、あるいは飛行機や自動車などの輸送機関にはあるもの、これらを指しています。具体的には、非常脱出口、シートベルト、エアバッグなどです。

非常脱出口が無い

スペインなどの新幹線では、非常時には大きなガラス窓を割って車外に脱出することになります。窓ガラスを割るためのハンマーが装備されています。ガラスを割ってこの窓から脱出するとき、地上までの高さは少なくとも1.5Mほどありそうです。手すりなどはありませんから、飛び降りることになります。これは必ずしも安全な動作では無さそうですが、車内に閉じ込められるよりは安全でしょう。ご存じのようにわが国の新幹線にはそもそも「非常口」は一切ありません。世界の常識とは大きく異なります。

バスの非常口

スペインではバスにも非常口とハンマーがありました。驚いたのはバスの天井(ルーフ)に非常口がついていることでした。これなら、バスが横転したとき、車外への脱出が容易になります。わが国のバスでルーフの非常口はまだ見たことがありません。バスが横転する事態を想定するとルーフの非常口はきわめて有効です。旅客用バスには法制化すべきことですね。

旅客機の非常口

これは搭乗して離陸前に必ず客室乗務員から説明があります。わが国新幹線の窓は旅客機のように小窓タイプです。従って、非常脱出口は旅客機タイプにすればよいのでしょう。スペイン新幹線のような大窓ではないので、非常時に必要なガラス窓を割るためのハンマーは不要です。それにしても、わが国新幹線には「非常口」は一切ありません。輸送機関としての独自の使命感、それに基づく安全に対する感覚はどうなっているのでしょうか。担当する技術者の方々の倫理ではどう受け止められているのでしょうか。欧米とわが国の差異なのか、JR各社経営陣には我われ日本人の悪い特徴、平和ボケがあるように感じます。

特大荷物の持ち込みルールで感じること

最近、東海道新幹線では大きなスーツケースの持ち込みにルールができました。そのスペースとセットで座席予約をする必要があります。特大でなくても、網棚にスーツケースなどがあると事故のとき、それらの落下で二次的な災害(乗客の負傷)が起こります。これは、旅客機のように蓋のある収納ボックスにすべきでしょう。少なくとも、まずは特大荷物を乗客の頭上から少しだけ追放したのは事故時の被害低減のために一歩前進と言えます。

旅客輸送の安全対策 ソフト面

乗車前、全ての旅客に対してのセキュリティチェックが欠かせないと考えます。このことは本エッセー第145回でとり上げましたので、繰り返しません。ただ、スペイン国鉄では新幹線に限らず、在来線の特急電車でも乗車前のセキュリティチェックを実施しています。JR東海などは、乗客の利便性(すぐに乗車できること)を損なうとの反論があるようですが、ガソリンやナイフを持ち込んでの犯罪行為は既に起こっています。新幹線乗車前に、航空機搭乗前のようなセキュリティチェック厳守は必ず旅客の理解が得られます。警備員の車内巡回だけでお茶を濁している場合では無いと考えます。わが国の政府当局からは何の指示や助言は無いのか、あってもJR各社はそれを無視しているのか、奇異に感じます。

まだあるハード面で必要な対応

自動車には、衝突時の乗員保護のためにエアバッグやシートベルトがあります。自動車よりもはるかに高速で走行する新幹線にこれらがあってもおかしくありません。飛行機ではシートベルト装着は当たり前で、さほど苦になりません。新幹線でもシートベルト着用は常識になるでしょう。

わが国の新幹線は、世界初で登場し開業以来無事故という大記録をつくっています。さらに安全面でも世界の常識をこえる対応や備えを期待しています。事故が起こってから対応するようでは(これはどの国でもよくあるまずいことですが)、わが国の誇りを汚すことになります。世界に先駆けたわが国新幹線が、安全面でさらに先進的な存在になることを願っています。


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