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第72回 執拗な被告叩き 池袋プリウス暴走事故一審判決後も続く~トヨタはこのような世論を良しとするのか

津曲 公二

大善寺 (甲州市勝沼町 山梨県)山門の両側には憤怒の形相の仁王像がある
大善寺 (甲州市勝沼町 山梨県)
山門の両側には憤怒の形相の仁王像がある

執拗な被告叩き 池袋プリウス暴走事故一審判決後も続く

本欄でこの暴走事故をとりあげるのは、今回で3回目になります。実刑判決は9月2日でした。2週間も経たないうちに、被告の実名に元院長をつけた被告叩きの記事が出ました。
記事の題名は「『事故の原因は車にある』荒唐無稽な無罪主張を続ける○○元院長の“逃げ得”は許せない」でした。記事では被告の実名ですが、本稿ではあえて伏せています。
いわゆる上級国民という表現こそ使っていませんが、一審判決後にもこのように執拗な被告叩きを続け、冷静になるべき世論を煽り立てる意図は何なのでしょうか。

荒唐無稽な主張なのか

事故の原因は車にある、これが本当に荒唐無稽な主張なのでしょうか。裁判での唯一と言ってよい根拠は事故記録装置(EDR:Event Data Recorder)の解析でブレーキを踏んだ形跡が全く無いということでした。これについては、EDRに客観的な信頼性があることが絶対に必要な前提条件のはずです。被告と原告(検察)、両者の言い分が真っ向から対立しているのですから、EDRに客観的な信頼性が要求されるのは当然のことです。EDRの信頼性を鵜呑みにする司法の前近代性は、これからの時代に即していないばかりか、このような被告叩きをさらに増長させることになるでしょう。

客観的な信頼性がある事故記録装置とは

事故記録装置について長い歴史があるものは、航空機に搭載されているフライトレコーダーです(飛行記録装置FDR:Flight Data Recorder)。1960年代初期から実用化され、現在では世界の各国で採用されています。
裁判にも耐える客観的な信頼性をもつフライトレコーダーは旅客機には搭載が義務付けられており、その取り扱いが厳しく管理されています。当然のことながら、事故調査に当っては法的機関または指定された第三者機関が厳重に分析する仕組みになっています。航空機の事故に際しては必ず分析される事故記録装置となっています。

EDRの信頼性は確立していない

プリウスのEDRは、フライトレコーダーのような客観的な信頼性は今のところ確立していません。まずEDRの統一基準が無いこと、メーカーによって記録するデータが異なることなどがあります。そしてここが重要なのですが、EDRから事故発生時のデータを読み出し、そのデータを分析するには専門の知識と訓練を受けた専門家(有資格者)が必要になります。その専門家が圧倒的に不足しているのです。
今回の裁判ではトヨタの提出した分析によるものですが、これでは裁判の中立性は保てません。被告として認められないのは当たり前のことです。当然のことながら、検察側の提示した証拠としてそのまま採用できる客観的な信頼性は持ち得ないはずでした。司法がこれらの事情を考慮せず、被告に対して著しく偏った判決になりました。

被告の主張を「荒唐無稽」と責め立てるのは、司法と同列の前近代性ゆえか、それとも他の意図があるのか、いずれかに違いありません。

執拗な被告叩きで胸をなでおろすのは誰か

この記事の著者は「交通事故は社説のテーマには相応しくないのか」として、なぜ新聞社説はこの事故をテーマに選ばないのだろうと書いています。さらに「読者の関心度の高いニュースこそ、取り上げて論じるべきではないだろうか」と結んでいます。
EDRの分析が中立では無い検察側に偏っていること、要するにメーカーの提出した証拠については何の問題も無く、かつ気にもしていないようです。読者の関心が偏った情報に基づくものであれば、そこを指摘するのがジャーナリストの使命であるはずです。

トヨタはやるべきことをしていない

前回(第70回)でも書きましたが、メーカーであるトヨタには暴走事故に関するEDR誤作動について多くの情報があるはずです。これだけ社会問題になっていることについて、メーカーには第三者機関に分析を依頼するなどで、EDRデータとその分析の信頼性と客観性について明らかにする必要があります。それこそが、世界的なトップ企業の責任であると考えます。

今回のような言説については言論の自由とはいえ、これから同種の暴走事故をすべて運転手の過失であり、メーカーの責任ではないという世論をつくる方向に作用します。トヨタはその方向を良しとするのでしょうか。


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