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第106回 悪いことをすれば誰でも捕まる日本~フランスやドイツに見るトップ層の倫理観の欠如

津曲 公二

飛行船の模型 (ドイツ博物館 ミュンヘン バイエルン州 ドイツ連邦共和国)
飛行船の模型
(ドイツ博物館 ミュンヘン バイエルン州 ドイツ連邦共和国)

フランスでは政界と財界のトップ層は捕まらない

2018年2月、ルノー・日産・三菱自動車のトップを兼任していたカルロス・ゴーン逮捕は衝撃的なニュースでした。長期にわたる経営不振が続く日産に1999年初頭に着任、瞬く間に日産を復活させたビジネス界のヒーローだった人物の転落劇はマスコミを賑わすに十分でした。当然のことながら、フランスのマスコミでもとり上げられ、ネットで飛び交っているコメントのひとつに次のようなものがありました。

・・日本は素晴らしい国だ、悪いことをすれば誰でも捕まる。

これだけでは、ピンときませんでした。このネット情報を教えてくれた知人によると、フランスでは政界と財界のトップ層は、悪事を働いても逮捕されないらしいのです。そういう「常識」があるので、書き込みをしたフランス人は日本では「悪いことをすれば誰でも捕まる」ことに感銘を受けたのではないか。このような解説でした。しかし、トップ層は捕まらないというフランス社会の常識も最近では変わりつつあるようです。

大統領経験者が汚職で実刑判決

2007年から5年間フランスの大統領を務めたニコラ・サルコジ被告は、汚職罪で禁固3年の実刑判決を言い渡されました(2021.03.02)。さらに、2012年の大統領選挙で法定上限を上回る選挙活動費を支出した罪で、2回目の実刑判決を受けました(2021.09.30)。旧聞になりますが、これらは昨年のことです。現在のフランスで実刑判決を受けた大統領経験者は初めてのようです。

ゴーン被告にフランス検察が国際逮捕状を発付

彼は公判中に日本からレバノンへの逃亡を企てました。2020年12月のことでしたが、大型の楽器ケースに身を潜めての大阪からの脱出はプロの協力者による密航計画に基づくものでした。レバノンにいる限り、レバノン政府は自国市民を外国に引き渡さないので安全ではあります。ここでフランス検察が国際逮捕状を発付しました(2022.04.22)。レバノンから出国すれば、日本やフランスから身柄の引渡しを要求されることになります。往年のビジネス界ヒーローの残された人生はレバノンに閉じ込められたままになりそうです。

政界と財界のトップ層は捕まらないというフランスの常識は、二人の事例から少しまともな方向へ変化しそうな雰囲気です。しかし、相変わらずおかしいと筆者が感じるのはフランスの隣国ドイツの政界と財界のトップ層です。

ドイツのシュレーダー元首相 批判の矢面に

ロシアによるウクライナ侵攻でロシア企業に天下りした欧州の元首相が相次いで辞任しているそうです。その中で、ロシアとの海底ガスパイプライン計画「ノルド・ストリーム」を推進したシュレーダー元首相が批判の矢面に立たされています。彼がロシア国営企業の要職にとどまっているからです。さすがにショルツ首相も無視できず、同じ党の先輩であるシュレーダー氏にロシア企業の役員退任を迫ったそうです(毎日新聞2022.03.08)。

さらに驚くのは彼のロシアべったりの姿勢です。ロシアのウクライナ侵攻で起こった惨劇について「ブチャ虐殺はプーチンの責任ではない」と発言、殺人犯を守るプーチンの使い走りと非難されています(クーリエ・ジャポン 2022.05.01)。

似たような事例はわが国にも

これに関して、筆者は昨年9月の自民党総裁選のときの候補者河野太郎氏を思い出します。初めは国民的人気が高く、総裁選における優勢が伝えられていました。総裁選は決選投票に持ち込まれましたが、国民的人気を活かすことはできず敗れることになりました。

総裁選の期間中に、彼の家族が経営する企業の大株主が中国共産党員であると伝えられました。筆者はそんなことがあってよいのかと驚きました。

自民党の総裁選はわが国の首相を選ぶことになります。首相候補者の家族が経営する企業の大株主が、中国共産党員である。これは現在の日中関係を考えれば、首相の資格として絶対にあってはならないことです。ロシアがドイツの政界に強い影響力をもつことが、シュレーダー元首相の批判につながっています。これと同様なこと、わが国の政界に中国が大きな影響力をもつことが明るみに出た一件でした。

日本のほとんどの大手マスコミは、中国のこのような侵略的な所業を決して報道しません。しかし、このときはさりげなくかつタイムリーに国民の知るところになりました。これが自民党の総裁選で河野太郎氏の敗北につながったのではないかと思っています。

ドイツ自動車業界の排ガス不正スキャンダル

シュレーダー元首相のような倫理観の欠如は政界だけでなく、経済界のトップに位置する自動車業界にもあります。ベンツ、BMWやVWなどによるクルマの排ガス規制を不正によって免れようとした国際的なスキャンダルがありました。

2015年9月に発覚したドイツVW社の排ガス不正事件は、アウディやポルシェなどのVWグループ企業だけでなく、ベンツやBMWなど他のメーカーも同罪を犯していることがわかりました。日本のメーカーはクリアした排ガス規制をドイツのメーカーはクリアできなかったのです。ドイツの技術的な停滞と倫理観の欠落が明らかになった事件でした。利益のためなら規範や秩序は無視して何でもやる、これを各社が一斉にやったのです。これらの企業が不正を談合したのではなく、同様な不正行為を一斉に実行したのです。これは、ドイツ企業に共通する傾向と断定せざるを得ません。わが国には、少なからずドイツ崇拝やドイツ信仰があります。ドイツのこのような不正の事実を直視すれば、そのような崇拝や信仰はとんでもない誤りと気づくべきです。こう述べると、わが国にも様ざまな不正行為があるではないかと反論されそうです。

わが国の企業倫理に反する事件は一部に留まる

2000年に発覚した三菱自動車のリコール隠し事件は、小説や映画でもとり上げられ社会的に大きな反響がありました。しかし、トヨタ、日産やホンダなどの企業に対する疑念が沸き起こることはなく業界全体への信頼が揺らいだようには見えません。あくまで、三菱自動車の愚かな経営者たちだけの問題だったと理解されています。ドイツのように、自動車各社がそろって不正と知りながら犯罪を起すという共通の傾向は全くありません。わが国の企業倫理はきわめて真っ当なものであり、ドイツのように利益のためなら何でもやるという不気味さはありません。

悪いことをすれば誰でも捕まるというフランス市民の日本社会へのひと言は、わが国社会の倫理観がまともであることに対する的確な褒め言葉と感じます。


ニュース

  • 2022年5月13日

第105回 番外編(11)わが国の多様性が豊かな社会をつくる

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  • 2022年5月6日

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  • 2022年4月29日

第103回 番外編(9)終身雇用、その意味と価値を考える

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開催日:2022年6月14日(火)

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講師:株式会社ロゴ 津曲公二

主催:大阪府工業協会

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