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第58回 無いものねだりをせずに気長に待つ~家康クラスのリーダーはいつ現われるか

津曲 公二

伊勢神宮にて(伊勢市 三重県)
伊勢神宮にて(伊勢市 三重県)

ワクチン接種で不満やイライラが募るわが国

英国の秀逸なワクチン接種計画は本エッセー第53回(2021.05.10)で紹介しました。国内に感染者がいなかった昨年1月から着手しています。ワクチンの青田買いで先行確保する、ワクチン接種の打ち手が足りないとわかると法律を改定し医師や看護師でなくてもできるようにする。その鮮やかな手際の良さは世界でも例がありません。それに比べれば、わが国の対応はいかにも不慣れで国民の不満やイライラが募ります。

わが国は抜群の好成績

しかし、視点を変えるとわが国は抜群の好成績を示しています。それは死者数が圧倒的に少ないことです。死者数を英国と日本で比較してみます。

  英国 日本
死者数 127,000人 14,042人
人口 6,790万人 12,650万人
人口100万人当たり 1,870人  111人

出典
死者数 英国:NHK NEWSWEB 2021.06.02  日本:NHK 2021.06.12
人口 2020年版最新世界人口ランキング ELEMINIST 2021年3月23日時点

わが国の死者数が圧倒的に少ない理由

日本の死者数は英国の約6%弱にとどまっています。欧米の先進諸国においても抜群の結果です。これにはそれなりの理由があります。

① わが国の衛生管理が諸外国に比べてきわめて高いレベルにあること 
手洗いやマスク着用の習慣化などは当たり前ですが、電車のつり革やエスカレーターの手すりなどが「抗菌」仕様など多分わが国だけのことでしょう。

② 政府や自治体の基本的な医療サービスが充実していること 
国民皆保険、救急車無料など当たり前。毎年インフルエンザ予防ワクチンが準備されたり肺炎球菌ワクチンの5年ごとの定期接種が実施されるなどの充実した医療サービスがある。
以上は、筆者の断片的知識、体験や感想にすぎませんが、海外の事情を聞くたびにこのように考えずにはいられません。

国の基礎体力が優れている

つまり、死者数がきわめて少ないという好結果は国家としての基礎体力が充実していることに尽きると思っています。従って、非常事態での対応に遅れをとったとしても、それをカバーして余りある体力がものを言ったということです。
英国はNHS(国家保健サービス)による国営の医療体制です。BBCニュースを見ている限りでは、ここ10年ほどの状況は医療崩壊寸前のように感じました。医療体制がボロボロで崩壊寸前だったので、多くの死者数を記録することになったと考えます。

無いものねだりをやめる

その英国での秀逸なワクチン接種計画は政府トップのリーダーシップによるものでしょう。非常事態においてわが国では見られない稀有のリーダーシップが発揮されました。基礎体力の充実と非常事態でのリーダーシップ、この二つがそろえば言うこと無しで完璧ですね。でも、後者はわが国においては無いものねだりです。マスコミや政権野党の批判はつねに無いものねだりであって、建設的なことを聞いたことが無い。テレビや新聞などのマスコミ離れや野党の支持率激減は視聴者や購読者、有権者の自然な反応の結果ではないでしょうか。

まさにこの二つがそろったリーダーだった家康

とはいえ、わが国には優れたトップリーダーは全くいないのでしょうか?国の危機に的確に対応した歴史上の人物がいます。最近読んだ「戦国日本と大航海時代」(平川 新著 2018年4月 中公新書)から、徳川家康こそがまさにその人だとわかり感動しました。国の基礎体力の充実と非常事態でのリーダーシップ、これらの二つがそろっていたのです。しかし、従来からわが国には家康や徳川幕府に対してネガティブな観点がありました。例えば、そのひとつとして1637年の島原の乱に対する徳川幕府の鎮圧をキリスト教徒に対する迫害であったとする、いわゆるキリシタン迫害史観です。キリスト教が封建制の邪魔になるから弾圧したとの説明ですが、これが全くの誤りであることを著者は明快に解き明かしています。家康は日本が外国の植民地になることを防ぐためにキリスト教を厳しく禁止したのでした。

日本はなぜ世界最強スペインの植民地にならなかったのか

この本の帯に書いてある1行です。このことについて筆者は知ってはいましたが、この本を読んで理由がはっきり理解できました。当時の世界最強国家であったスペイン(含むポルトガル)はキリスト教の布教と同時に軍事侵略による植民地化という野望のもとに活動していました。信長や秀吉もその意図は見抜いていましたが、具体的な政策まで実行したのは家康でした。

以下は「戦国日本と大航海時代」に基づいています。

信長は「地球の裏側から危険を冒して日本にやってきたお前たちは盗賊か」と疑っていた。彼らのもたらす知識には大きな興味をもったが決して気を許すことはなかった。

秀吉はキリシタン大名やポルトガル商人が日本人を奴隷として売買しているのを知って激怒「すべて買い戻す」とした。また、在フィリピンのスペイン総督に「布教を隠れ蓑にした日本侵略は絶対に許さない」「交易通商だけの目的なら許可する」としていた。

鎖国とは「引きこもり」ではなく、幕府によるスペインとの国交断絶の政策だった。スペイン船の来航禁止令は1624年、断交というより追放に近い。スペインとしては引き下がるしかなかった(幕府の強力な軍事力の背景があった)。政教分離を建て前としていたオランダのみは通商関係が続くが、長崎の出島に封じ込められた。オランダ商館長は江戸への参勤も命じられた。

400年も待つのか

天下分け目の関が原の戦いは1600年10月のことでした。家康クラスのリーダーの出現に400年も待たなければならないのでしょうか。そんなことは無いと思います。リーダーシップが家康の1/10ほどでもよいとすれば待つのは40年ですむかもしれません。もっと気が利いたやり方もあります。

社会や職場でそのようなタイプの人物が期待される雰囲気をつくり出すことです。我われ日本人はリーダーがいないと言って「無いものねだり」をします。しかし、リーダーに必須の合理的な思考をする人物を内心では忌避しているようにも見えます。テレビや新聞などのマスコミは自らの見識レベルは棚上げにして、何につけても批判や揚げ足取りの繰り返しを得意技にしています。我われ自らに必要なリーダー像を思い描く姿勢があれば400年も待つことは無いでしょう。


ニュース

  • 2021年6月11日

第59回「リーダーの全体観」

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  • 2021年6月4日

第58回「変革期におけるリーダーの舵取り」

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  • 2021年5月28日

第57回「変革期にリーダーが直面するジレンマ」

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