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第63回 論理と合理を毛嫌いするわが国~場当たり的な「一揆的行動」が主流の日本

津曲 公二

円形闘技場(2世紀 タラゴナ古代遺跡群)世界遺産(タラゴナ カタルーニャ州 スペイン)
円形闘技場(2世紀 タラゴナ古代遺跡群)
世界遺産(タラゴナ カタルーニャ州 スペイン)

「ぎ」を言うな!

いぜんに本欄でとり上げたことです。第45回の冒頭部分を引用します。

これは筆者の出身地である鹿児島の方言です。「ぎ」とは論議や討議の議を指しています。「論議はもう止めろ」や「リクツはもうたくさんだ」といったときに使われていました。とくに先輩からこういう発言があったとき、後輩としては沈黙することが絶対に必要でした。さすがに、現在ではこのような強制力をもった言葉や発言は無くなったようです。
しかし、わが国にはこのような論議を尽くすことを避ける傾向が現在でもいぜんとして残っています。

「ぎを言うな」のもとにあるもの

今回は「ぎを言うな」の続きです。論理と合理を毛嫌いする傾向がわが国には強くあり、そこからこのような方言として表面化したのではないかということです。方言は消えても、この傾向は別のかたちでわが国全体に強く根を下ろしています。このような傾向が、何らかの行動になるとき、ほとんどつねに場当たり的で後先を考えない行動になってしまう。このような「一揆的行動」が主流の日本では様ざまな問題現象が見られます。
ここで「一揆」とは、もちろんわが国の歴史にあった様ざまな一揆のことです。現代の一揆的行動にも共通するのは、次のようなことでしょう。

①目前の要求を達成することだけが目的となる 
②その要求の背景にある構造的な問題には考えが及ばないし手を出せない 

一揆的行動の事例として西南戦争(1878年)があります。

わが国近代史の一揆的行動としての西南戦争

ご存じのように、これは薩摩士族が西郷隆盛を担いで起した不平士族の最後の武力反乱となりました。要求としては士族に対する処遇に不満がある、これを改善せよという政府への陳情でした。きっかけとして、薩摩士族の神経を逆なでするような明治政府の行動があったと伝えられています。それにより不満が一気に噴出して武力反乱につながった。目前の要求はあるが、明治政府に取って代わる新政権を打ち立てる構想などは全く無いし、政府が採用すべき政策となるような提案も無い。後先を考えずに、ただ暴発しただけということでした。典型的な一揆的行動でした。
ここで筆者として追記したいことがあります。西郷は担がれたとはいえ、彼は後先を考えない暴発に別の意味を見出していたと思われます。それはこの暴発により、政府への抗議形態として武力反乱に終止符を打つことでした。歴史小説「翔ぶが如く」(司馬遼太郎)を読んで筆者の感じたことです。

脱炭素社会を目指す国策に関わる事例

世界の潮流であり、日本の国策としても明確に脱炭素があります。このような位置づけのある国策にも関わらず、これに反する目前の要求を声高に主張する事例があります。自動車業界とエネルギー関連の二つを述べます。

自動車

EV(電気自動車)が世界の潮流になっているにも関わらず、ガソリンを使うHV(ハイブリッド車)にこだわり続けているのがわが国のトヨタです。いかに世界トップ企業といえどもEVは新しい市場です。世界の各社に先駆けて準備しておかないと完全な出遅れになり手痛い市場喪失につながります。そうなると、日本の貿易収支にも大きな悪影響を及ぼすことになるでしょう。目前の要求にこだわり続けていると、背景にある市場の構造的な変化を理解することができなくなるというトップ企業による一揆的行動の事例です。

エネルギー

脱炭素という前提は、炭素(C)を含むものには手を出さないことを意味します。炭素の除去とその廃棄がからむ案件は、技術開発課題としては入口で失格ではないでしょうか。
脱炭素という国策があるのですから、太陽光(風力、波力含む)を利用する、水素のみを生み出す(炭素の除去や廃棄を伴わない)、入口をこの二つに絞りこむことが開発資源の戦略的投入を実現することになります。少なくとも国費を投入するなら、政策としてはこういう合理的な前提条件をつけることによって困難ではあっても高いレベルの技術開発を引き出す姿勢が欠かせません。とりあえず、何とかできそうなものでやってみようということでは、将来の水素化社会で遅れをとることになるでしょう。
やりやすそうなことだけに着手し、困難なことには背を向ける姿勢はまさに一揆的行動そのものです。

・メタンハイドレード 
わが国の次世代エネルギーとしてメタンハイドレードは長い間話題になってきました。これを未だにわが国のエネルギーとして採用すべきという言説があります。メタンそのものが今後は使えなくなるのに、メタンを主とするその構想は時代の流れを全く無視しています。これの開発構想を進めることは、官民を問わず開発資源の浪費と言わざるをえません。

・褐炭水素化プロジェクト 
オーストラリアに豊富に存在する褐炭(低品位の石炭)をもとに水素ガス(H2)を生成する褐炭水素化プロジェクトが進行しています。このプロジェクトも水素のみを生み出すものではなく、最終的に不要になる炭素(C)を廃棄する必要があります(廃棄のために適した海底地層があることもプロジェクトの好条件のひとつとされているようです)。
このプロジェクトには民間企業のほか、日豪両政府ともに出資しているそうです。前述したようにこのプロジェクトも、水素のみを生み出す(炭素の除去や廃棄を伴わない)という前提条件を満たしません。とりあえず、何とかできそうなものでやってみようということでは将来の水素化社会をリードする展望は見えてきません。
このようなプロジェクトで資源と時間を消費しているうちに、世界のどこかで空気や水から水素だけを直接生み出すシステムを水素化社会のインフラとして実現させるのではないでしょうか。

根本にある論理と合理の忌避

場当たり的な「一揆的行動」はわが国のいたるところで見受けられます。根本には論理と合理を毛嫌いする、あるいは忌避することがあると筆者は考えています。ビジネス現場での具体的事例について「テレワークの推進」をやめた職場、「会議時間の短縮(会議の時短)」を外形的な取り組みだけで留めた職場などはまさに一揆的な行動そのものです。これらについては、別途の機会にとり上げるつもりです。


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