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最新のエッセー

第90回 スペインの明国侵略計画を牽制した朝鮮出兵~新しい史観が的確に裏付ける秀吉の名誉回復 

津曲 公二

四柱神社 松本市大手3 丁目 
四柱神社(松本市 大手3丁目)

司馬遼太郎作品の愛読者

会社勤務をするようになって、司馬遼太郎(1923~1996年)の作品を初めて読んだのは「燃えよ 剣」でした。休日には、家族揃って新撰組の史跡を巡りました。主なところでは東京の日野市や町田市、少し遠くは山梨県甲州市の大善寺、函館市の五稜郭などにも行きました。「坂の上の雲」は2010年と2011年に続けて、これをもとにマネジメントに関する著書を2冊出版しました。司馬遼太郎について感じたのは、小説と言いながらも現存資料から史実に基づき丁寧に記述されていることでした。とくに「坂の上の雲」については、4年間にわたり新聞に連載されていたこともあって、執筆中に新たな史実が判明すると、文庫本のあとがきには新史実による修正が追記されていました。小説の範囲を超えて、研究報告といった雰囲気がありました。

秀吉は英雄から痴呆老人に

「新史太閤記」(1968年)は秀吉のサクセスストーリーです。一介の農民の息子が戦国時代の日本の覇者に上り詰めるまでの英雄として描かれています。従って、批判の多かった朝鮮出兵などについては書かれていません。ところが初期の作品である「梟の城」(1959年)では、秀吉の晩年は老いぼれた痴呆老人として描かれています。誰でも老いると、そういう可能性はあります。おまけに朝鮮出兵は英雄秀吉の妄想や精神錯乱によるとする説もあります。これを根拠に秀吉の晩年は痴呆老人だったとしてもさほどおかしくはないでしょう。これまでの「常識」として、秀吉の朝鮮出兵は愚行だったという理解が一般的だったからです。

朝鮮出兵の真の意味とは

ところがわが国の歴史家は、これは妄想などではなく計画的な行動だったとする見解が出るようになりました。本エッセー(第77回:日本はなぜスペインの植民地にならなかったのか)でもとり上げました。「戦国日本と大航海時代」(平川 新 2018年)を読んで、次のようにまとめてみました。

  • 当時のスペインとポルトガルは世界征服の尖兵として、カトリック宣教師(バテレン)たちを送り込み、キリスト教の布教に集中した。
  • 日本は戦国時代であり圧倒的な戦力を保有していた。中南米のようにわずかな兵力で武力制圧することは不可能であった。そこで、まず住民をキリスト教徒にしてキリスト教国にすれば武力制圧は不要と考えた。
  • 他方、明国は人口が多くしかも日本のように強大な戦力は無い。ここに布教して多くのキリスト教徒を得ることができれば、日本よりも手間がかからず征服できそうである。日本征服は明国の力を使ってその次にやればよい。

秀吉は、もしも明国がキリスト教国になりスペインの勢力圏になることを恐れた。そうなると日本の防衛上きわめて危険な状況になるからである。そこで、スペインよりも先に明国を制圧しようと考えた。朝鮮出兵の目的は朝鮮ではなく明国にあった。

大作家は知らなかった

司馬遼太郎の「この国のかたち 三」(1995年)によると、秀吉の朝鮮出兵の目的は「わからない」と書いてあります。そして、やはり病気のせいにしています。参考になる資料として、フロイスの「日本史」があります。「完訳 フロイス日本史」(全12巻 中公文庫)は2000年の出版です。我われのような素人には無理でも、司馬遼太郎ならばこれを解析すれば、朝鮮出兵の真の目的がわかったことでしょう。残念ながら、この資料は時期的に間に合わなかったようです。

大作家の誤解による大きな影響を解消する

現在の我われは平川 新氏の著書で、新しい史観を知ることができます。秀吉の朝鮮出兵は妄想などではなく、リアリズムに徹した計画に基づいたものであることがわかります。家康の時代になると、彼は外交顧問のウイリアム・アダムス(三浦按針)から欧州情勢を把握できました。スペインにはアジアに関わる余力はもはや無くなったことを知ります。家康も秀吉と同じことを恐れていましたが、もう、スペインに先んじて明国を制圧する必要は無いと確信をもてたことでしょう。

秀吉の朝鮮出兵は、彼の晩年の妄想などの誤解があります。とくに大作家がそう書くと大きな影響があります。新しい史観は秀吉の名誉回復のために的確な裏付けを提供しています。


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